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あ、申し遅れました。僕、佐々木慎太郎って言います。小さな貿易会社で営業をやってます。すんません、今名刺が手元に無くて・・・
超ブラックな会社で社畜の如く働いていたわけでもなく、地方のフツーの大学をフツーに卒業し、フツーに苦労して就職し、何事も無く3年程過ごしておりました。
気になる女性が居ない訳では無いですが、たまに皆でご飯行くくらいで進展は無し、そんな血統証付きのモブです。はい。趣味はおうちでゲームを少し、後はなんと言っても温泉です。
そんな僕が何で今、零度近い水温の雪解け水の川の中で必死に岩にしがみ付いておるのかと言いますと、はい、正直分かりません・・・なんとなくは想像出来るんですが・・・
あ、ちょっと待って下さい、今僕のジャケットに縋り付いてる緑の小鬼さんが・・・
だ、ダメでしょ!今そんなの振り回しちゃ!あ、なんか矢まで降って来た・・・だ、ダメですって、皆さんお仲間さんに当たったらどうするんですか?一旦皆さん落ち着きましょ!ねっ!?
「ひぎゃっ!」
ほら言わんこっちゃない。お仲間に矢が刺さっちゃってます。剣呑な金属の穂先が付いた短い槍を右手に持ち、左手で僕のジャケット(ウニクロ¥3980)を握った腕にざっくり刺さってます。痛そう~。
握力が無くなったのか、小鬼さんの手が離れて行きます。僕は咄嗟に左手を伸ばして小鬼さんを掴もうとしました。
何とか槍の棒の部分、柄って言うんですかね?を掴む事が出来たんですが、そこで僕は考えます。
僕、何で助けようとしてるの?!
慌てて手を放そうとしたその時、岩を掴んでいた僕の右手のすぐそばに矢が当たって火花が散ります。
「のわっ!」
無事に手を放しました。右手を・・・
げぼががががg・・・・
洗濯機の中に入ったようにかき回され、もみくちゃにされて、一瞬水面から頭が出たので思い切り息を吸います。再び水中へ。
何度か繰り返し漸く落ち着いて参りました。左手にはしっかり槍を握っておりますがその先の本来の持ち主さんがいつの間にかいらっしゃらない。とにかくなんとか姿勢を変えて水の抵抗を減らし、水面に顔を出します。
「あらー」
凄く景色がいいです。一面大パノラマ!なんだかとっても遠く迄見通せます。
滝です・・・