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右膝が攻撃を受けたわけでも無いのに熱を帯びた気がします。
高速とは言い難いかも知れませんが、動く小さな標的を的確に狙う事が出来る触手羅刹は相当優秀な感覚器官を持っているに違いありません。
しかも、間接を狙って来るところから結構知能も高い可能性も有ります。
それでも連撃を凌ぎながら近づき、今や彼我の距離は20mを切っています。
しかしながら僕の手に今握られている武器は使い慣れた片鎌槍。銃ではありません。
まあ、仮に銃を装備していたにしても、この距離で激しく動きながら撃っても当てられる気はしません。
そして今手に有るのは信頼高い片鎌槍。今まで何度も僕の命を救ってくれた相棒の一つです。
ですが柄を伸ばした状態のこの武器の距離は1.5mから2.5m。それが適切な距離。と言う事は、あと十倍近づかなければなりません。
そして重ねて言いますが、触手羅刹に近づけば近づく程危険度は高くなります。何せ一撃でジャージートプスのフリルと頭蓋を破壊する威力を持つ攻撃手段を有する敵です。
この距離でなら盾を斜めに構え、斥力ビームを何とか往なす事が出来ますが、あともう10mも進めば威力は幾何数級的に跳ね上がり、盾自体の強度はともかくそれを支える僕が確実に耐えられないでしょう。
しかし、足を止める訳には行きません!
足を止めれば最後、斥力ビームに袋叩きにされ、僕は亀のように首を竦めて二度と盾の陰から出る事はかなわないでしょう。
故に前進有るのみ!
強気の理由はもう一つ。
頼もしい足音が後ろに続いています!
さっき僕を庇ってくれた使役人形の足音です!
援護攻撃までは期待していません。僕に追随し、居てくれるだけで被弾率が半分になりますから!
期待通り、僕に向かっていた斥力ビームの回転速度が下がります!
そして気付きました。ジャージートプスのあの強烈な打撲痕、あれは触手羅刹の全力攻撃だと言う事。
全ての触手のビームを集中させないと、あの威力は出せない。触手一本分の威力だけではあそこ迄骨を砕く事は不可能。
だからと言って脅威には違いありません。現に盾で防いでいるにも関わらず、僕は吹っ飛ばされそうになっています。
しかし付け入る隙は有る筈です!