~女神による腐った世界の為の陳腐なチュートリアル①~
あいつは躊躇なくバスに背を向けて走って行った。
口の中にさっき叫んだ言葉が苦い毒のように残っている。
拒絶の言葉に罵倒を重ね、俺の腐った性根をまた汚して行く・・・
ヨーコは弱い女だ。幼い頃に両親を事故で亡くし、遠い親戚の家に預けられたらしい。別にスポイルされた訳でも虐待があった訳でもない。ただ、夜中になると自分でも押さえられなくなる位寂しさが募り、居ないと解っている両親を探しに夜の公園を泣きながらうろつく。そんな幼いヨーコを不憫に思いつつも、預けられた先の家族はどう接していいか分からないようだったと、一度だけ酔ったヨーコは語っていた。
愛情に飢え、しかし与えられることは無く、心だけ取り残したまま彼女は大人になった。
次第に彼女は歪み、ダメな人間を選んでは、自分が尽くす事によってその者に自分が必要だと思わせたい、愛情を買うという事を始め、御多分に漏れず利用され続けた。
そのダメ男レーダーに引っかかった何番目かのクソ野郎が俺だ。
そんな俺とは裏腹に、あいつは、あの全身で力一杯人畜無害を体現しているような、気の弱そうなあの男は、パニックを起こしている周りの人間の中から一早く立ち直り、素早く状況を判断して手助けに向かった。
一瞬の躊躇いも無かった。
俺は無理矢理挟まった足を引っこ抜き、ヨーコを助け起こす。衝撃が起こった瞬間、飛びあがったヨーコの体を何としてでも守る為、足を踏ん張ったのがまずかったのか、膝に鋭い痛みが走る。
気にしてはいられない、意識はあるが、ショック状態のヨーコを静かにシートに座らせ、怪我が無いかを見る。
この温泉旅行をヨーコは楽しみにしていた。俺は温泉は余り好きではなく、行きたがっていたのはヨーコだ。それを察して俺の方からヨーコに温泉旅行の話を持ち掛けた。いつだってそうだ。さっき食ってたカレーパン、俺はカレーも好きじゃない。ヨーコは自分が好きだから俺の分も買ってくる。
いつでも俺はヨーコを優先する。それと分からないように、ヨーコが傷つかないように・・・
それなのに事故!もしヨーコが怪我でもしたらどうしてくれる!
「どうなってんだゴルァッ!」
走り去ったあいつを追いかけて、汚らしい妖怪みたいな猿達は消えて行った。
自分のやった事に反吐が出そうだ。だがそれでいい。俺はあいつを捨ててヨーコを守った。ヨーコを理由にして逃げた事も認める。俺は腹黒い小心者のクズ野郎、それでいい。ヨーコさえ無事なら・・・
脅威が去ってすぐに三人組のキモイヲタク共が後部座席で騒ぎ出した。
「あそこを見るでござる!いよいよ始まったでござるね!チュートリアルイベ!」
大木の根元に女神が眩しく降臨していた・・・
どこに向かっているのだろう?