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扉の前に集めていた砂を撒いて、降り積もった砂埃の上に着いた足跡を消し、そっと扉を閉めます。
音を立てないようにそっと・・・
崩れている石を静かに動かし、床に入った亀裂と石との間に盾の上部を挟み、ソニックバンカーの先を入り口に向けて固定。
ドアノブに親蜘蛛の糸とトンボ革で作ったパラコードを結び、扉が開いたら問答無用でソニックバンカーが作動するようにセット完了。
続いて外壁に開いた窓をタープを広げて塞ぎ、光と、少しでも音が漏れないように気を配ります。
そこまで作業を終わらせると、ようやく僕は冷たい床に腰を下ろして一息入れました。
ここは城砦の丘の一番外側の、多分見張塔かなんかだと思います。
城砦の丘の内部は独特の形状をしていて、まるで迷路のようですね。
地形的にはすり鉢状ですが、中央は大きく盛り上がって大きな城のようになっています。基本的に建物は全て回廊で繋がっており、丘の上の地面に下りる事は有りません。
と言うか、地面が有りません。
そうなんです。
独特の形状というのはそれでして、丘の上のすり鉢状の内部はここから見える範囲では全て水に覆われているのです。
その湖面の上にびっしりと網目のように回廊が巡らされ、建物はあるいは回廊を支えに宙に浮き、あるいは水中から生えるようにして立つ柱の上に建っています。
例えるなら、卵の殻を真半分に割ってその下半分に水を溜め、その上に網の目状に都市を築いたような・・・
それを直径数㎞に拡大したのが僕の目の前の光景です。夕焼けに浮かぶこの街はちょっとスケールが大きすぎて眩暈がしますね・・・
外壁に近くなるほど湖面から遠くなり、中心に行くほど低くなる構造ですが、中央の王城のような立派な建物のみが周囲の建物を圧して高く聳えています。
そこから放射状に橋のような回廊が伸び、蜘蛛の巣のような印象を受けます。
外壁の所々には、僕が今居るような高い塔が等間隔で有り、完璧な都市計画の下に造られた街というのが判りますね。凄いとしか言いようが有りません。
全体的には真っ白な大理石のような石造りで、経年劣化等で大部分が崩落しているのですが、まるでギリシャのミコノス島やサントリーニ島の街を思い出させます。
白くない石材も若干使用されているようですが、石灰を用いた漆喰で塗られており、徹底して白さに拘っているのが感じられました。
ただ残念な事に、今は手入れするヒトもおらず随分と煤けていますが・・・
一つ違和感があります。
全体のスケールも大きいのですが、個々のサイズも少しおかしいのです。ヒトに比べて少しばかり大きいですね。
僕は中肉中背ですが、建物内部に入るとなんだか子供になった気分になります。
ドアノブの位置も高く大きく、バランスを考えるとおそらく平均身長3m以上の人型種族の街ではないかと考えらますね。
ちょっとした巨人の国に彷徨い出た感じです。
そして一番重要な事。
ここは触手羅刹の巣窟でありました・・・
城砦の丘の断崖、その上に聳え立つ外壁を、盾の斥力を上手く使って三角飛びの要領で登り、一番低い建物の屋根に辿り着きました。
我ながら曲芸のような身のこなしでしたが、これが一番早く、音を立てず、尚且つ楽なので敢えてチャレンジして成功させました。
そこまでは良かったのですが、まさか登った先でいきなり触手羅刹に至近で出くわすとは思いもよりませんでした。
一瞬の間、お互いびっくりして固まった状態でしたが、いち早く立ち直ったのは僕の方でした。
触手羅刹が居るとは思わなかったですけど、何かは居るかも知れないとは思っていましたから。
そりゃ、無警戒で飛び上がったりはしませんよね。
そのまま無言で抜き打ちにライトレイを至近距離で三発胸に撃ち込み、脳を破壊。
触手羅刹はそのままひっくり返り、屋根を滑って下の湖にポチャンと落ちて行きました。
ちゃんと解剖して弱点見つけておいて良かった・・・
以前はあんなにも苦労した相手に完璧な勝利で、こんなにもあっさりと倒したのに素材は回収出来ませんでしたが、二度とこんな心臓に悪い戦いはしたくありませんね。
おしっこちびるかと思いました・・・