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夕方近くなり、僕はやっと城砦の麓を一周する事が出来ました。
相当大きいですね、この城砦の丘・・・
結局、城砦に登る侵入口は発見できませんでした。
入口の無い都市。
或いは地下にそういったルートが有るのかも知れません。
そして一番の懸念事項であり、この探索の最大の目的であった、友好関係を結べそうなヒトの集落の発見と接触・・・
これは絶望的です。
近づけば、外から見ても判りました。
明らかに廃墟です。
絶壁を登った先の外壁は、内外からの植物の侵食で崩れ、大小の鳥獣の住処になっているようです。
また外壁に面した建造物も確認出来ましたが、あるいは崩落し、あるいは姿は保っているもののその機能を失っている物ばかり。
既に僕の目的は達成されたと言っても過言では無い状況ですね。
僕の目的は先刻も述べたように、友好なヒト存在との接触でした。それが望めないようであれば、この危険な場所からさっさと退散し、安全地帯に下るべきです。
ただ同時に、滅多に来ることが無いであろうこの地の探索も無理の無い範囲で進めようという思いも有ります。
無理の無い範囲ってどの範囲?って自分でも思うんですが、こればっかりは判らないですよね。
この崖を登って壁を超えたら、実は隠れるように生き残りの方が住んでいた。
という未来もあるかも知れません。
逆に、壁を超えた瞬間何かに見つかって抵抗も出来ない内に生きたまま貪り食われる。
という未来も充分有り得ます。
この時間になるまで探索してしまったというしくじりを犯した僕には時間は有りません。
もうすぐ陽が暮れます。
本来ならばもう野営の準備を済ませ、体を休ませねばならない時間です。
焦るとロクな事が無いと判っているのですが、決断を迫られますね。
一旦霧の大草原に戻って野営し、明るくなるのを待って侵入する。
これは一見手堅い方法に思えますが、実はここから霧の大草原はちょっと距離が有り、迷わず森を抜ける事が出来たとしてもその頃には確実に暗くなっているでしょう。
森で夜を明かすという選択肢は有りません。
見た所デスペアパイセンは夜行性では有りませんが、あんなのがうろつく森です。夜にはもっと怖いのがうろついているかもしれません。とてもそんな所で眠るなんて事は出来ません。
最後の選択肢。
城砦の中に入る?
未知の領域にこれから暗くなる時間に入る・・・
有り得ませんわ。無理ですわ。
なんとか最短で霧の大草原に戻る案一択でしょ!
とは思ったんですが、どういう訳かさっきから周囲がザワツク雰囲気・・・
具体的には森のあちこちでナニかの獣の悲痛な断末魔の鳴声が・・・
怖すぎです!
因みに僕は今城砦の北側麓の巨木によじ登っています。
城砦の丘はその半ばを森に埋めるようにして存在しており、その形はほぼ完ぺきな円形。外周は数十㎞はあるでしょう。
この大きさのせいで---その大きさを読み違えたせいで---僕はこんなところで立ち往生しているのです。
それにしても不自然な丘です。
土台となっている岩石の組成が森の石と同じ組成では有りません。わざわざ別の場所から巨大な、それこそこの丘そのものを持ってきた印象です。
しかも若干ですが、南に傾いていますね。長年の地盤沈下で城砦の土台ごと傾いてしまったのでしょう。
ひょっとするとそれが原因でこの城砦が遺棄されたのかもしれませんね。
そんな事を考えている間にもどんどん陽が落ちて行きます。
周囲の血の饗宴は落ち着いているようですが、ノコノコ出掛ける気にはなれません。
この巨木の上で夜を明かす事も考えましたが、デスペアパイセンや触手羅刹が徘徊する森の中で、逃げ場のない樹上、剥き出し、等という条件の場所で眠れる程僕は図太く有りません。
出来ればちゃんとした閉鎖空間が欲しいです。
仕方有りません。完全に暗くなる前に丘に登りますか・・・