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簡単な検証実験でしか出来ませんでしたが、端的に検証結果をまとめます。
生体魔力ではないので凄く出力は落ちますが、やはり斥力で間違いないようです。
斥力は物を反発させる力。例えて言うならば、磁石のS極とS極をくっつけようとすると反発しますね、あれが斥力です。
磁石の場合は同極でしか発生しない力ですが、この魔晶石はほぼ全ての物質に対して有効なようです。
物体の接近、例えば剣での攻撃では期待通り反発します。但しミスリルでの攻撃は、面の攻撃と線、または点での攻撃とでは反発具合が異なるようです。
面---剣の腹等---では木の棒等より強く反発します。
線や点---剣での斬撃や矢での射撃---ではあまり強く反発しません。これはミスリルの特性である、魔力の反射による現象だと思われます。
対して物理的な炎、例えば焚火の炎は反発します。周囲の大気も反発するようなので、空気の対流が発生します。この対流のせいで、当初僕は風の魔法と勘違いしていました。
そして魔法的な炎、例えばファイアレイ、これは反発しません。
謎です。
重ねて言いますが、やはりミスリルに対しては反射率が高いようですね。角度が有るとより高く受け流すようです。
あれだけボコスコにやられたのに、この程度の打撲で済んでいるのはそのお陰ですね。さすが聖銀!
一回遅くなった朝ごはんを挟んで検証しましたが、今日は少しゆっくりする事にしました。
何しろ肩はともかく膝が痛いです。
歩けない程では無いですが、このまま無理して歩いてもロクな事はないでしょうね。
最初に貰った脇腹は案外平気でした。距離があったからかもしれません。
ネイのくれたスースーする軟膏を患部に塗りこみ、痛みが引くのを待つことにします。
勿論ただ待つだけでは時間がもったいないので、何か作業しましょう。
何かって?
勿論斥力の魔晶石を使っての工作です!
何をするかはもう決めてます。
と、言うかこれしかないでしょう!
ずばり、盾の強化です。
何の捻りも無いド直球ですが、これが一番有効でしょう?
ボロボロの盾表面の革を剥ぎ、小一時間かけてミスリル製の鏨で盾の中央に小さな穴を開け、ブリリアンカット斥力魔晶石を埋設。
周りを ”どこでもミスリル先生” で盛り上げるようにロウ付けし、ついでにカメオのように周囲を唐草で装飾。
我ながらいい仕事です。
格調高い盾に仕上がりました。
あとはソニックバンカーに繋がった魔石ボックスの隣に専用の魔石ボックスを設置して配線し、エナームにスイッチを付ければ出来上がり。
ここで一つ誤算が起きました。
即席で作ったミスリルのスイッチボックスの配線が甘く、スイッチを切ったつもりでいたのに、実は入りっぱなしだったのです。
作業が終わり、盾を隣に転がした瞬間の事でした。
盾が地面から浮き、勝手に滑って走り出したのです!
「えっ!嘘ォ!ちょっと待って!!」
焦りまくって盾を追いかけます。
いい感じに盾の表面の曲線が滑らかに橇の役目を果たし、先端は地面をこすっているのですが、結構なスピードで進んで行きます。
恐ろしい事に僕の全力疾走より遥かに速いスピードです!
おそらく前傾に角度が付いた事で、斥力が推進力となり進んでいるのでしょう。しかも盾の先端は疑似刃になっており、軽い草ぐらいでは斬り飛ばして抵抗になりません!
しかも微妙な地形の変化に合わせて直進もしないし、下草に隠れると見失いそうになります。
結局突き出た岩にぶつかり、盾がひっくり返るまで僕は10分近く全力疾走を続ける羽目になりました。
ネイの軟膏が短時間でびっくりするほどの効き目が無ければ、僕は盾を見失っていたかもしれません。
危ない所でした。
冷や汗どころの話ではありません。
ゼーハーと荒い息を整えながら改めて周りを見ると、ジャージトプス達が不思議そうに僕を見ています。
どうやら同じ所を僕は周回していたようです。ジャージートプスの群れの外周をグルグルと・・・
なんと間抜けな姿でしょうか、自分が情けなくなります。
ですが、もう一つ思いつきました。