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「フンゴッ!」
あれ?何で起きたんだろ?おしっこ?って言うか前にも無かったでしたっけこんな事・・・
寝惚けてボケっとしていると、シェルターの外から魂も凍るような叫びが聞こえて来ました!
甲高い鳴声はおそらくジャージトプスの子供の声でしょう。
大質量の重量物が一斉に身動きする地鳴りのような音が響きます。
瞬間的に目が覚めた僕は慣れ親しんだ動きで装備を纏い、シェルターを飛び出しました。
今回はシェルターの支柱にしていた片鎌槍も引っこ抜いて持って来ています。
薄明るいです。
もうじき夜明けですね。周囲は影絵のように輪郭だけが見えています。
仔ジャージートプスの鳴声は続いています。切なくなるような悲しい声です。
段々弱くなる・・・
そして僕は見ました。
それは、朝日が昇る前の弱々しい光の中に禍々しく宙に屹立する、千手観音立像・・・
それに襲い掛かる大きなジャージートプス!
その他のジャージートプス達は、千手観音立像を相手に果敢に牽制しています。
あ、親と思われる個体が跳ね飛ばされた!
でもどうやって!?
千手観音立像も充分でっかいですけど、それは僕と比べてです。
恐ろしい力です。
10tはあるジャージートプスを、自らは小動もせずに撥ね退けるなんて・・・
しかも顔どころか、背中の触手ですらほとんど動かしていません。
跳ね飛ばされた親ジャージートプスは、悲痛な声を上げて立ち上がりました。
角が片方折れてます。おそらくあの不思議な攻撃をまともに喰らったのでしょう。左の角が真ん中でポッキリといってます。
千手観音立像はそれこそ顔色一つ変えず、足元で痙攣する仔ジャージートプスにまるで乗っかるように空中を移動しました。
滑るように、音も無く・・・
恐ろしい魔獣です。あれでは接近されても気が付きようが有りません。
そしてその背中にはあの色とりどりの鳥の羽が刺さっています。
あの時の個体です。
改めて出会うと、以前初めて見かけた時、デスペアパイセンクラスの魔獣だと思ったのは間違いでは無かったと思います。
体が震えて止まりません。
圧倒的な、それこそ理不尽とも言える力の差を感じます。
僕がブルっている間も、攻防が繰り広げられています。
ジャージートプスの攻撃方法は角を使っての頭突きがメインのようで、ただひたすらに頭突きを繰り出していますが、千手観音立像には届いていません。
そう、まるで見えない壁があるかのように、ある程度の距離で止まってしまうのです。
ただ、千手観音立像の方でも防御?している間はその他の行動が出来ないようで、仔ジャージートプスを捕食できていません。
しかも同時攻撃を受けると、慌てたように一方を吹っ飛ばし、もう一方を不可思議な力で受け止めるというような動きをしています。
段々明るくなってきました。
明るい朝日の下、近くで見る千手観音立像は何とも言えない不気味な凶悪さに満ちた姿です。
金色に輝く全長は3m程、地面から1m以上は浮いているでしょう。
頭は小さく、猿のよう。
背中には左右四対のクジャクの羽のような触手。
体の両脇、腕と思っていたのは象の鼻のような細長い器官でした。
体は節くれだった古木のように捻じれた流線形で、足は無し。
その代わり宙に浮く台座のように広がった下向きの口・・・
まるで出鱈目な生き物です。
植物っぽくも見えるし、原始生物にも見えます。
おそらくあの顔のように見えるのはフェイクでしょう。さっきからさっぱり動いていません。
この魔獣を放って置くとまずい気がします。それはもうビンビンにします。
味方?が居る内に排除するのが得策でしょう。
でもそれにはもう少し情報が必要です。