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機関銃蜂の死体を槍先に引っ掛けたまま命辛々逃げ延び、丘を三つ越えた所で草叢に飛び込んで身を潜めました。
時刻は昼近く、しばらくじっとして動きませんでしたが、追撃は無し。
ようやく愁眉を開いたところで、どっと疲れが襲って来ました。
無限革水筒のスイッチを入れて魔法の水を発生させ、貪るように水を喉に流し込んで一息入れます。
しばらく伏せて息を整えると、やっと周囲を見渡す余裕が出て来ました。辺りは幾分気温も上がり、あいにくの曇り空とは言え霧は晴れつつあり、だいぶ遠くまで見通せるようになっています。
どうやら水蛇湿地は越えられたようです。
草叢から這い出し、改めて前方を見ると、目の前には日本では見ることが出来ない光景が広がっています。
・・・テキサス・・・
ふと頭を過ぎるそんな地名。
いや、行った事無いんですけどね。
古い映画の、こんな曠野を馬で行くカウボーイのワンシーンが思い浮かびます。
あるいは遥かなる獏北の地、モンゴルの大平原でしょうか。
神戸の西区も結構平坦で田畑が広がってだだっ広いですけど、ちょっと桁が違います。
余談ですが、神戸は都会というイメージですがそれは中央区の三宮界隈です。北区なんかしょっちゅう電車と鹿がぶつかって電車が止まります。猪だって普通に街をうろついてますよ。六甲山恐るべし!
鳩にエサあげないでっていう看板じゃなくて、猪にエサあげないでっていう看板が有ります。
遠くに地平線が見えます。丘の稜線かもしれませんけど、とにかくスケールが半端ないです。
たしか海岸線に立った人間から見た水平線までの距離が4㎞ちょっとだったかな?
ここは平坦な土地では無いので参考にもなりませんが、ある程度絶望できます。
歩いて行くの無理なんじゃないかな?って気がしてきます・・・
カウボーイだって馬に乗ってましたもん・・・
それでも行くしかないんですけどね。昔の人は一日40㎞歩いたって言いますし、負けてられませんよね。
そして、曠野には沢山の生き物が居ます。
まるでテレビのネイチャー番組のサバンナの光景ですね。
其処彼処にジャージートプスや見た事も無い動物が、小さな群れ、大きな群れを作っています。
鹿に似た動物も居ますが縮尺がおかしいです。角の先がジャージートプスの頭を超えています。
その他の動物も大体大きいですね。
寒冷地の動物は大きくなる傾向が有るといいます。大きい方が体温が下がり難いですからそうなるんですね。
ここに居る動物たちもその法則に当てはまるんでしょうか。違う気もします。そこまで寒冷地って訳でもないですしね。
よく見ると小さい動物も居ます。小さいと言っても普通の牛や鹿くらいですけど。
このように色々な種類の動物が一緒に居るのは理由が有ります。
背の高い動物は遠方を、背の低い動物は茂みを警戒し、捕食者が現れると共通の警告音を発して一斉に逃げるのです。
ですからそれぞれの群れには必ず頭を上げて、周りを警戒している個体が居ます。草食動物の本能ですね。
曠野は所々灌木や割と丈の高い草叢が茂っていますが、基本草原。見渡し最高!
つまり身を隠す場所無し!!
僕より足の速い何かに追われたらそれだけでアウト!
そして大概の動物は僕より足が速いです。それも途轍もなく。
段ボール被ってズリズリ曠野を渡るしかないですね!
やりませんけど!
段ボール無いし!
後を振り返ると、偉大なる傾斜が遠く壁のように見えます。頂上は雲に隠れています。
アレ下りて来てんやー。
と、今更ながら感心しますね。
偉大なる傾斜にそっと背中を押されたような気がして、僕は曠野に目を戻しました。
進むしかないでしょう・・・
ブクマ有難うございます。
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