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ザックから盾を下ろし、肩掛紐をしっかりと肩に掛けつつ頭上に掲げます。傘代わりですね。前が良く見えます。
盾としては水蛇的ヤツメウナギには余り防御効果は期待出来ませんが、無いよりは良いでしょう。
しかし横たわっていてもでかい・・・
このジャージートプスはほぼアフリカ象サイズです。つまり傷口がかなり上で良く見えません。
登らないと見えないでしょうね。でも登りたくありません。
近寄ると匂いもきつい・・・
雨だからこれぐらいで済んでますけど、晴れてたらもっと酷い匂いでしょうね。その辺は雨に感謝です。
結局登りました。
申し訳ないですけど片手拝みで一礼し、倒れている角に足を掛けて頭を登ります。
フリルって凄い!フリルというのは、あの兜の垂れのような骨質の装飾の事です。
完全に後頭部から首周りをガードしてますね。低い姿勢から角を突き出せば、喉をやられる事は無いでしょうし、背中の皮も分厚くてゴツイ!
足も太いし、蹄もでかい!割と最強系の草食動物ではないでしょうか・・・
こんなのをどうやったら倒せるのでしょうか。
って一目瞭然なんですけどね。
まず倒れている下側、つまり左の顔面から側頭部にかけて、広範囲に陥没しています。まるで巨大な岩石か何かで潰されたような感じです。フリルも一部割れて解放骨折してます。骨の中は空洞ですね。軽量化されてます。
左の角はかろうじて頭骨についていますが、根元に罅が入り、今にも折れそうですね。眼も潰れています。
左足もその時折れたのでしょうか、本来ならば曲がらないであろう角度に曲がっています。
そして右肩から脇にかけても大きく陥没。やはり外部からの圧力で凹まされた感じです。肩甲骨が完全に砕けてますね。
最後に腹部から骨盤の辺りにかけては他と様子が違い、円形に食い千切られています。
こんな傷をつける攻撃をする魔物、動物に心当りは有りません・・・
あ、あれかも・・・
千手観音立像・・・に、そっくりな何か・・・
確かあの時、鹿は見えない力で押さえつけられていました。それこそ、そこそこの大きさの鹿が地面にいきなりベチャッと押し付けられていたのです。
その後ヤムヤムされていたのですが、あれが魔法的な圧力で押さえられていたとしたら・・・
その魔法的な圧力の出力を上げたとしたら、こんな打撲痕が出来るかも・・・
まあ、推測に過ぎないんですけど何となく当たりのような気がします。
食い千切られている傷口も、あの蓮華座の口の口径にあってるような気もしますし。
必要な情報は手に入れました。
その情報を有効活用出来るかは別問題ですが、とにかく一旦ここを離れてビバークしましょう。
もう、何処が安全なのかさっぱり判りません。
おっかないのはウロウロしてるし、そこら中沼が有るし、水蛇的なのはよく見るとウヨウヨ居て気持ち悪いし・・・
この場所を水蛇湿地と名付けます。
かなりうろつき、なんとかやっと少し盛り上がった丘のような場所を見つけました。
時間の感覚がなくなったので、今が何時頃なのかさっぱり判りません。太陽って偉大ですね・・・
お腹のすき具合から見て、夕方近いような気もします。
お昼を食べて無いですし、雨も降り続いていますから踏んだり蹴ったりですね。
緊張の連続、恐怖の連続、ストレスで禿げたらどうしましょう。
背丈の比較的高い草地の中に入り込み、タープでシェルターを張ります。今回はコンパクトに背も低く作り、その分余った余白で床も作ります。
折り紙をしている感じですね。
片鎌槍でしっかり支柱を立て、入口もきっちりクローズすると、何とかぎりぎり横になれるスペースが出来ました。
雨音が凄くうるさいので、カモフラージュも兼ねて周りの草をバスタードソードで刈り取り、シェルターに被せます。
これだけでだいぶ静音されましたし、保温効果も期待出来そうです。
でも今日は鎧は脱ぎません。
魔晶石ランタンを小さく灯し、キャンピングコンロを出してお茶を沸かします。
気温はどんどん下がり、吐く息が真っ白ですよ。
例の、チッチッチッボッ!という頼もしい音がして紫の炎が上がります。ああ、暖かい・・・
ところでこの魔晶石キャンピングコンロ、一酸化炭素って出ないですよね?