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十歩行くうちに一人を殺し、千里の道を行くのに立ち止まる事すらない
事が終われば服の埃を払って、名乗りもせず黙って立ち去る・・・
中々李白の詩に出てくる伝説の侠客のようにはいきません。
僕なんか立ち止まりっぱなしです。
でも凡人でモブの僕は、こうして立ち止まって反芻し、反省する事で次に進む事が出来るのだと思います。
それにしても眠い・・・
アドレナリンが引くと、急激に眠気と疲労が襲って来ました。
今何時なんでしょうか。
二つの月は明々と出ていますが、太陽はともかくこの世界の月の運行はデタラメで時間の経過の参考になりません。それとも僕に判らない法則でもあるのでしょうか。
二つの月が、抜きつ抜かれつのデッドヒートを展開する天体の運行ってあるんですかね?
潮の満ち引きとかどうなってるんでしょう?
でも何となく、もうすぐ陽が昇って来そうな気はします。
使えそうな物を物色したら移動しましょう。
紅帽子達は、使えそうな戦利品をほとんど残していませんでした。武器はお粗末だし、吹き矢も使う気がおきません。
唯一無傷の毒袋が一つだけ、短剣持ちの紅帽子の腰帯から回収出来ました。でも、恐ろしくて触りたくありません。
しかし何かの役に立つかもしれないので、厳重に包んで持っておく事にします。
荷物やアラームを回収して、とりあえずこの場からは立ち去りましょう。
もう襲撃は無いかもしれませんが、自分のやった事とは言え死体のそばで夜を明かしたくはありません。
そう言えば先生出ませんね・・・
このフィールドには居ないのかな?出る条件とかあるんでしょうか。
小一時間程移動し、ほんのり東の空が明るくなって来たところで休憩します。
そうだ、忘れずに盾に光の魔晶石を取り付けとかなきゃ。
ミスリルで作ったヘッドライトの反射板の角度は広角に取り、光が拡散するようにしています。それを魔石とスイッチのギミックごと外し、盾の上部に新たなミスリルでロウ付けします。
逆にヘッドライトの反射板は角度を鋭角に取り、絞ってビームライトにして取り付けます。
この魔石とミスリルのスイッチボックスのギミック、良く使うから規格化して大量生産しようかな。
そんな事を考えつつ作業は終了。
ここは幾分か草の背丈が高く、寝転べば周りから見えません。
アラームを設置し直し、少し仮眠を取る事にします。
荷物を下ろし、それにもたれるようにしてマントに包まると、鎧がゴツゴツと体に食い込みますが眠気の方が不快感より勝ってます。
寝ないと体力の回復も出来ませんし、判断力も鈍ります。寝られるうちに寝て、食べられるうちに食べる!基本ですね!
それからは何事も無く気分よく目が覚めました。
太陽の具合から二時間は寝たと思います。鎧で体の各所が圧迫されていた割に、中々爽快な目覚めです。
体のあちこちがバキバキに固まってますが、軽く柔軟した後歩けばその内ほぐれるでしょう。
キャンピングコンロでお湯を沸かし、熱いお茶を淹れて朝食にします。
メニューは、森芋の粉末をお湯で溶いた糊状の物の中に、ドライソーセージのスライスと乾燥ハーブを混ぜ、少しスパイスを効かせた何かです。
見かけは全く食欲をそそる物では有りませんが、実はかなり美味しいので気に入っています。腹持ちも凄くいいし、栄養満点らしいです。おまけに超簡単調理。言う事無しです。
ネイが作る普段の朝食もこれなので、ネイの故郷での定番朝食メニューなのでしょうか。
忙しい朝にはすごく都合の良いメニューですもんね。
無限革水筒の水で食器を洗い、その便利さに感動しながら荷物を整えます。
さあ、今日の冒険に出発しましょう。
今は晴れていますが、少し生ぬるい風が出ています。南から雨雲が近づいてきているので、昼頃には降られるかもしれません。
今日は何とか偉大なる傾斜を下り切って平原に出たかったのですが、余り雨足が激しくなるようならビバークも考えないといけませんね。
ブクマ、評価有難うございます!
低評価なら低評価なりに、どしどし御評価下さいませ。