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雪の上と違い、草のゲレンデは盾のエッジが効きにくく、実は慣れるまで何度も転びました。
座ってソリのように乗ればいいじゃないかとも思ったのですが、背中の大荷物や腰回りの装備が邪魔で、非常に、文字通り座りが悪く、結局スノボのように立って乗るのが一番しっくり来たのです。
なんせ僕の腰回りには、左腰に弓鞘、その上に被さるように銃のレッグホルスター、左腹に銃の予備魔石マガジン、右腹にはライター等の小物が入ったポーチ、右腰に愛用のナイフ、右後ろに矢筒、左後ろに無限革水筒とマグライト等、隙間無くびっしりと装備がぶら下がっているのです。
おまけに背中はバスタードソードと大きなザックがあり、改良されて軽く動き易くなったとは言えさらに鎧まで纏っています。
これで狭い盾の上に座ろうものなら、圧迫されて息が出来なくなるんです。
でも、慣れると最高!
右手に肩掛紐を握り、左手に畳んだ片鎌槍をバランス棒のように持つと安定するので、今はそんな感じで快適です。
たまにスピードを緩め、900なんかを決め損なってコケるのはご愛敬でしょう。地味にダメージを負っておりますが見逃して下さい。
速度は相当出ますね!スラロームで減速していますが、自動車くらいのスピードは出ています。出そうと思えばもっと出ますがやめときましょう。
それでも中々下まで着きません。
帰りの事を考えるとうんざりしますが、今はこの時間を楽しみましょう!!
どれくらいスロープを下ったでしょうか、太陽はもう中点を過ぎ、いくら陽が長くなったとは言え、おたおたしていると瞬く間に暗くなってしまいます。
途中何度か休憩を挟みましたが、かなりの速度で下ったはずです。徒歩なら確実に一日分以上でしょう。
どうやら旅程を見誤ったようですね。
怪我の功名と言うべきか、草滑りを編み出さなければ、調査どころの話では無かったかもしれません。
危ない所でした。帰りの事も考えて修正しましょう。
調査は三日間にして、二日を帰路の日程に当てる事にします。
それにしても凄い地形ですね。元の世界なら、ヨーロッパのアルプスの山岳地帯の風景のようです。
生き物も多いですね。実に多種多様です。
プレーリードッグのような小動物から狐系の動物、僕の見間違えでなければ紅い帽子をかぶったような小人みたいな生物も居ました。
ただしこの小人はゴブさんの親戚っぽく、ハァイホー!なんて感じではありません。要注意な気がしたので、紅帽子と呼称し、心に留めておきます。
そして今更ですが、この草地の坂を偉大なる傾斜と呼称します。
それはそうと、サバイバルのコツは全て早めの行動。夕方になってから野営の準備をしてはあっという間に陽が落ち、暗闇の中での作業になってしまいます。
ですので、今日は欲張らずにこの辺で野営する事にします。
いくらなだらかな傾斜地とは言え、勿論緩急は有ります。
比較的平らな所に荷物を下ろし、野営の準備に入りましょう。
ステルス張りというタープの張り方が有ります。
やり方にもよりますが、大体一本の支柱、十本から十二本の杭、三~四本の紐で構成する、一枚のタープをテントのように立体的に張る方法です。
フロアレスシェルターとも言いますね。床のシートが無いテントです。
親蜘蛛の糸で編んだタープを地面に広げ、まず後の部分を杭で固定、続いて入口付近を狭めるように杭で固定、タープを持ち上げるようにして支柱を立て、紐を張って固定します。
僕の場合は片鎌槍を支柱の代わりにします。高さも好みに変えられますしね。
サイドを杭で固定し、入口部分のドア代わりのたるみを紐を張って固定すれば完成です。かなり説明を端折りましたが、慣れると簡単。
注意は風向きですね。なるべく風下に入口を向けましょう。あと、張りが緩いとすぐ倒れちゃいますから気を付けましょう。
覚えておくと災害時に心強いですよ。備えよ常に、です。
寝る時は入口のたるみを閉めればある程度の風も防げます。
タープの大きさにもよりますが、ちゃんとしたテントと違って天井も低いし、狭小感はあります。ですが、何本もフレームを持ち歩くより楽ですし、何より超簡単。
後はテントを中心として半径20mにミスリルの糸でアラームを仕掛けます。東西南北で音の高さが違うアラームですので、咄嗟に対応し易いはずです。
ネイの居ない寂しいご飯を食べて、今日はもう寝ましょう。