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玉に貼りついている汚い血管自体には攻撃する能力はないようですね。
どこからか虫を呼び寄せたか、あるいは生み出したかして神域を占有し、守っていたのでしょう。僕にとっては大目玉に集中できるので好都合です。
矢筒から柳葉鏃を抜き、ミスリルボウにつがえます。柳葉鏃にしたのは、大目玉の硬さが判らない為です。
常識で考えれば、大きいとは言え目玉です。矢が通らない事は無いでしょう。でもここは不思議一杯謎現象の世界です。
防御力、一万二千!
の目玉が有ってもおかしくありません。ちなみに一万二千に意味は有りません。ステータス数値なんて無いですからね。何となくです。
という事で貫通力重視の柳葉鏃です。柳葉鏃は白い矢羽、燕尾鏃は黒い矢羽で作り別けしてますので間違えません。
しかし、ほぼ真上に向けての射撃は初めてなので上手く弦が引けません!
古いですが、イナバウアー!しないと狙えません!そしてこの体勢になると、鎧の重さで必ず倒れます。
よく弓を斜めに構えたり、真横に構えて矢を放つシーンを映画やアニメで見たりしますけど、あれってカッコいいですけど絶対に矢が遠くまで飛びません。だって弦が脇に当たって最後まで引けないんですもん。
遠くまで飛ぶはずないですよね。しかも異なったフォームで矢を放つと、矢は前に飛ぶだけで狙った所には飛びませんし当然威力も有りません。あれ程見掛け倒しも無いんです。
弓のハンドルを持つ左手は添えるだけ、弦を引く右手は、必ず位置を決めてそこまで引く事。例えば耳の下なら耳の下、顎の下なら顎の下と決めないと、矢を引く力加減が変わり、弾道も矢の向きも定まりません。
フォームというのは思った以上に大事なんです。
大目玉は天蓋の丁度窪みに収まるように嵌っており、角度的にほぼ真下の位置からでないと狙えません。
何度か無様に後ろにすっ転び、それでも倒れる寸前でタイミングを掴んで何とか発射!
正しいフォームとは言えませんが何とか狙った場所の近くには矢が刺さりました!
大目玉は瞬間瞼を閉じたのですが、瞼を貫き、黒目と白目の間くらいに刺さったはずです。
しかも矢羽が完全に埋まる程めり込んでいます。
その瞬間地底湖に重く振動が走りました。
大目玉はただの一矢で沈黙したようです。閉じた瞼の周りから変色が始まり、干乾び、壊死していきます。
次の瞬間、もっと大きい歓声が湖面から上がりました。鰭脚類人たちの喜びの声です。
しかし、まだ終わりではありません。
汚い血管はより一層激しく悶え、腐汁を飛ばして痙攣を続け、大目玉に近い所から壊死が始まりました。
末端の蕾は形あるものを生み出すのでは無く、今や下水のようにただ汚物を垂れ流し続けています。
僕はこの綺麗な地底湖が、これ以上汚染されるのをただ見ているのは我慢できません。ここには沢山の多様な生物が暮らしているのです。
あの異質な、今や形すら保てないような汚物で汚してはいけません。
ここは血管大目玉の中心、その真下。全ての蕾が射程範囲です。
燕尾鏃をつがえ、放ちます。
その度に蕾は収縮し、腐り落ちます。
僕は機械的に矢を放ちます。
いつしか、壊死した物を含めて全ての蕾は腐り落ち、まだ形を保っている物は鰭脚類人たちによって岸に運ばれ、積み上げられて行きました。
岸なら聖銀先生が片付けてくれるでしょう。
そして唐突に訪れる身体能力強化の反動!
いくら魔法でブーストしても、結局使っているのは生身の体。
視神経の使い過ぎで目の奥は痛く、視覚処理でフル回転だった脳は発熱!全身の筋肉は悲鳴を上げて筋肉千切れそうに痛いです!
しかもぶっ倒れた僕のすぐ真横に、干乾びた大目玉の成れの果てが落ちて来ました。
もう少しで潰される所でした!危なっ!
傷む全身、眩暈のする頭を我慢して何とか立ち上がり、とにかく無事を知らせる為にネイに手を振ります。
やっぱり身体能力強化の魔晶石、要らない・・・
有るのか無いのかも判らないけど、こんなに後が辛いなら・・・要らない・・・