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水中ならともかく、いくら強力な魔法が使えても、地上戦では鰭脚類人では勝負にならないでしょう。範囲攻撃でもない限りあっという間に虫津波に飲み込まれて終わるでしょうね。
そこかしこに鰭脚類人の物と思われる骨と車輪銛が落ちています。蔦血管で絡めて引っ張り上げ、虫に片付けさせる作戦ですか。
そう言えば、これだけ虫の死骸が有るのに聖銀先生現れませんね。
鰭脚類人の骨が有るって事は、この島には聖銀先生は現れないのですね。それもあの汚い血管の影響でしょうか。
しかし、虫の死骸が死屍累々過ぎて、もう気持ち悪いのが麻痺してきました。
シンタローは虫耐性一を手に入れた!
という気分です。
実際はアドレナリンで麻痺しているだけなんでしょうけどね。
フナ虫は一々止めを刺していたらキリが無いので、大半は湖に蹴り出しています。
きっと鰭脚類人のいいおやつになってくれるでしょう。
あれを見た時さすがに引きました。
食事時、ご隠居様御一行は背負い袋からおもむろに生きたフナ虫を取り出し、頭を齧ってぺッって吐き出したあと、美味しそうに胴の中身をじゅるるるるりゅうぅぅぅっ!と啜ったのでした。
せっかく美味しく食べたシチュウが逆流しそうでした・・・
勧められた時は腰を浮かして逃げ出しそうになりましたよ。
荒れた息を整えつつ、改めてこの島を観察します。
この島の頂上は平坦で、サッカーコート一面分くらいの広さです。明らかに人工的に造成されてますね。
所々灌木が生え、中央にあの玉が有ります。
玉を中心として島を縦断するように浅い溝が掘られていますが、涸れた水路のようです。
汚い血管は近くで見ると、気味悪く脈動しており、玉のすぐ上が少しふくらんでいます。
よく見ると、中に人影が・・・
ウゲッ!
王様半魚人がでっかい胎児のように丸まっています!
半魚人の生態謎過ぎます・・・
でもそんな事はどうでもいいです!王様半魚人が生まれる前にやっつけとかないと!あれはとても厄介です!
這い寄って来る触手のような蔦血管は切断するとのたくって縮んでいき、最終的に根元で腐り落ちます。バイオでハザードな光景ですね。
V-ジョルト落ちてないかな?植物でも無いか・・・
大方の触手蔦血管は始末しましたので、残るはこの本体の汚い血管の対処です。
虫はまだ少し残っていますが、二股ムカデや中蜘蛛、ゲジさんのような大物は少ないです。
弓か槍か・・・
この距離でもまだ一万分の一の確率を引きそうです。
マーフィーの法則という奴ですね。
曰く、失敗する可能性のあるものは失敗する。
なら、全部失敗してしまいますよね。世の中確実な物なんて無いですもんね。
本体の汚い血管から新たな蔦が粘液塗れでウニョウニョと伸びてくるのが見えますし、あれが矢を妨害する可能性は否定できません。
ならば片鎌槍で接近戦をするしかありません。
グズグズして貴重な時間を潰しても仕方ありません。何となく魔法効果が無くなりつつあるのが感じられます。
一歩進むたびにガポンガポン音がするブーツで地面を踏みしめ、血管に向かいます。
玉が有る場所はどうやら東屋のような建物があったみたいで、残骸が派手に辺りに転がっています。
足場が悪いですね。
等と考えていると・・・
・・・間に合わなかった!
王様半魚人が大量の粘液と共に産み落とされようとしています!
血管がミチミチと音を立てて割れ、そこから滑るように出てきます。
ドロッとした粘液が糸を引き、少し湯気が上がっています。生理的に受け付けない光景。
しかもなんか臭そうです!
たまたまそういうタイミングだったのか、それとも僕の接近を感じて慌てて産み落としたのかは判りません。多分後者でしょうね。
出てきてしまったものは仕方ありません!
王様半魚人は前回と違い、二回りくらい小さく、鱗も硬質ではないようです。
地面にベチャッ!っと転がった王様半魚人、当たり前ですが無手です。
武器ごと生み出されるミラクルが有るわけではないようで、ほっとしました。
それでは相手の体勢が整う前に沈めてしまいましょう!
蹲るような姿勢から立ち上がりつつある王様半魚人に向け、愛用の片鎌槍を構え!
シンタロー秘技!
必殺の!伸びろ如意棒!!
いや、棒じゃなくて槍なんですけどね。
槍の石突を掴んで、相手に向けて慣性で伸ばしただけなんですけどね・・・