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あ”----づべだいーーーーー!
なんとか覚悟を決めて腰まで水に入ったのは良いのですが、体が硬直して思うように動きません。
これは計算外です。
これでは、お豆腐島に辿り着いても体が動かず戦いにもなりません。
と、思っていたら、僕の様子を見ていたご隠居様がカクさんに何か囁きました。
カクさんは一つ頷くと、口の中でゴニョゴニョと呟き、僕に向かって手を伸ばします。
おおっ!魔法や!冷たさが急速に去り、何とか我慢できる温度に感じるようになりました。しかも体がスムーズに動きます!
今まで何度か謎現象を見て来ましたが、自分の体に起こるのは初めてです!
火の魔晶石に魔石を近づけたら発火する≒ガスに火花散らしたら発火する。
等、類似的な現象を思い出し、なんとなく納得していましたがやはり不思議ですね。
でも、この世界にはこの世界の法則が有るのでしょう。
逆にチャッカマンをこの世界の人の見せたら、「炎の魔道具や~っ!」ってなるのでしょうね。
もっとも、この炎の魔道具は小さな火を点ける以上の事は出来ませんが、それでも素晴らしい文明の利器です。
ご隠居様とカクさんに一礼して感謝を伝えます。
どうやらご隠居様とカクさんはネイと一緒にお留守番、スケさんは僕のバディとして随伴してくれるようです。
さあ、行きましょう!
僕はゆっくりと足を踏み出し、階段状の岩場を湖底まで一気に降ります。
鎧の重さがいい感じにバラストになり、体を沈めてくれました。
体をカニのように横にしながらトーン、トーンと湖底の石筍や石灰岩を蹴り、島に近づいて行きます。
石筍が有るって事は、昔ここはただの空洞で後から水が入り込んできた事になります。ひょっとしたら次のエリアがあるのなら、水中を進まないと行けないのかもしれません。
もしそうなら行きませんけどね。普通に怖いですよ。水中戦とか絶対無理です。
しまったなぁ、光の魔晶石でヘッドライト作っておけば良かった。
水深はそんなに深くなく、せいぜい3m~4mくらいです。湖面からの明かりも届きますし、湖底は地上と同じように石筍の先っぽが所々光っており、視界が効かない訳ではありません。
ですが岩の陰など薄暗い所もあり、少々不気味です。
完全に信用している訳ではありませんが、近くにスケさんが泳いでいなかったらもう少しビビっていたでしょうね。
ふと気になって光っている石筍の先端を観察してみると、光の魔晶石が埋まっています。
石筍というのは上から石灰質の水が垂れて、累積していくことで出来る柱状の石灰石です。
普通ならその先端が別の物体というのは有りえないのですが、ここは不思議満載の世界です。深く考えずそういう事もあるんですねぇ、で、済ませます。
ところでこの光の魔晶石取っちゃダメですかね?ダメですよね、許可なくそんな事するのはダメに決まってます。
光の魔晶石は後で追加報酬としておねだりする事にして、今はとりあえず先を急ぎましょう。
湖底は恐ろしく清浄な世界で、どうやって生態系が成り立っているのか不思議です。
水が綺麗なのはプランクトンが少ないから。ならプランクトンを主食とする生物も少ない筈。そしてそれを捕食する生物はもっと少ない筈です。でも何でしょうこの生き物の豊富さは・・・
魚は勿論の事エビ、カニのような甲殻類、水蛇、ビーバーのような齧歯類も居ます。
昔映画で見た洞窟潜水では死の世界みたいな感じでおどろおどろしく描かれていましたが、異世界ですもんね。
しばらくしてお豆腐島の麓の辿り着きました。
どこかの風の谷のガスマスクに近いデザインの水中呼吸器もいい仕事してくれてます。
そう言えば有名な台詞が有りましたね。「う、少し肺に入った・・・」でしたっけ。
僕の場合は「う、少し鼻に入った・・・」ですけど。まあ、入ったのは腐海の毒ではなく水なんですけどね。ツーンとします。
懸念していた水中での戦闘は無くホッと一息です。
もっとも、僕に近づく大型の魚とかワニみたいなのは、全部スケさんが追っ払ってくれてたんですが・・・
身振りでスケさんに謝意を伝え、離れるように伝えます。
簡単なジェスチャーなら通じるんですよね。姿は違えど人情は同じなんでしょう。
さあ、ここからが本番です!
ブクマ有難うございます。
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