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罠っぽい小道---結局罠は無かったのですが---を奥へと進むと、地底湖に突き出す岬のような場所に出ました。
岬の先にはお豆腐みたいに不自然に白く四角い島が浮いています。
その島のてっぺんには洞窟の中だと言うのに、こんもりと背の低い灌木や草が生い茂り、空中庭園のように見えます。
何本か茶色い蔦が崖に垂れており、あれに掴まれば登って行けそうな感じです。
ある種の神域のような雰囲気ですが、残念ながら神域を彩る草木たちは、今や枯れかけているようです。
見ようによっては、枯れかけた草がおろし生姜と鰹節、まだ残っている緑がネギ、垂れている茶色の蔦が醤油で、まるで巨大な冷奴のようにも見えますね。・・・食べたい。
お豆腐島までは岬の先端から50mくらいでしょうか。島の高さは10mくらい。絶壁に囲まれ、登るのは無理ではないでしょうが、難しそうです。
そして問題はお豆腐島の中央付近にある玉です。
直径2mは有ろうかという真珠のような丸い綺麗な玉は、うっすらと弱々しく光を明滅させており、その玉自体は儚げでとても綺麗です。
ですがその玉に吸い付くように、生物的な蠕動を繰り返す汚らしい血管のような物が貼りついているのです。
おそらくこれが諸悪の根源、ご隠居様が僕をここへ連れて来た理由といったところでしょうか。
血管はそのまま50m程上の地底湖の天蓋に伸び、そこから四方に網目のように天井に貼りついて蔓延っています。
そしておぞましい蕾のような膨らんだ先端を下に垂らし、粘液に濡れた洞窟半魚人を生み出しているようなのです。
洞窟半魚人のびっくり生態です。
湖面から顔を出した鰭脚類人は、生み出されたばかりの洞窟半魚人を迎撃しているようです。
膨らんだ蕾から排泄物のようにひり出され、落ちてくる洞窟半魚人を下から銛で串刺しにしたり、魔法で撃破したりしています。
ですが、よく見ると天井に貼りついた血管は少しづつ増殖し、その先端の蕾も育っているようです。
今の所、ひり出される洞窟半魚人の数はまだ対処できるようで、殆ど反撃を許さず優勢に戦闘を進めていますが、根本の膨らんだ蕾、若しくは玉に取りついた本体らしき血管までには手が回っていない様子。
そもそも魔法の射程は最大30mくらいしか無いようなので、天井に届きませんし、島の上の本体には角度的にも届かないようです。
そして鰭脚類人たちにあの崖を登る術は無いのでしょうね。
あるいはあっても妨害が有って登れないかのどちらかでしょう。
時折、持っている車輪銛を蕾に投げる鰭脚類人もいますが、軽く刺さるだけですぐ抜け落ち、効果的な攻撃とは言えないようです。
御隠居様が期待を込めた目で汚らしい血管本体の方を指さし、僕を見ます。
さてどうしたもんでしょう・・・
多分ですがこの汚らしい血管は、あの玉から魔力なり何なりのエネルギーを吸い取って洞窟半魚人を生み出しているのでしょう。どういう生態なのかは謎ですが・・・
で、あれば幾ら末端の蕾を攻撃してもしょうがないですね。
ここからミスリルボウで狙撃出来るかな?
距離50の仰角・・・多分距離的に出来なくはないと思います。
でも、もし外してあの玉に当たっちゃったら・・・
マズいですよね、多分・・・
僕のミスリルの鏃は二種類。小さなダガーのような柳葉鏃と二股の燕尾鏃、いずれも相当な貫通力と破壊力が有ります。
僕の大体の感覚で言うと、この距離なら車のボンネットくらいなら軽く貫通出来る威力が有るはずです。
もし、玉に当たったら無事では済まないですよね。
蕾の方はどうでしょうか。
僕の弓の射程距離に有るのは僅かに一つ。
とりあえずあれでちょっと試してみましょう。
僕は矢筒から二股の燕尾鏃の付いた矢を取り出し、蕾を狙います。
洞窟半魚人が生み出された直後だと、蕾は細くて狙いづらいですが、幸い僕の手の届く蕾はこれからひり出すようです。
よく狙って・・・
カンッ!
当たり!ウゲッ!気持ち悪っ!
僕の愛用のリカーブボウは30ポンドですが、車のフェンダー穴空きます。
アーチェリーは腰痛に良いと整形外科の先生に洗脳されたので始めました。背筋鍛えると確かに腰の負担が減るので良いですね!
※個人の感想です