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さっそく川原まで戻って参りました。
考えてみれば、今朝家を出てから僕が一番長く居る場所です。ヌクヌクと安全だった場所から離れるのは後ろ髪を引かれる思いがします。出来ればあの岩の間でずっとうずくまっていたい。
でもそれは自殺行為です。安全だったのはあくまでも偶然だったと思わないといけません。夜行性の嗅覚が優れた獣、狼とか熊とかに襲われたらあの場所では対処できません。何よりお腹が減ってますから何か探さないといけません。
空には地球の月より十倍は大きな月が二つ、白く茶色く出ています。クレーターまで肉眼ではっきり見えます。重力とか引力とか大丈夫なんでしょうか。落ちてきたりしませんよね?というかホントに月なんでしょうか。
さて何か探しますか。
川幅は崖の上よりはるかに広くなり、その分浅く、流れも緩やかです。向こう岸まで二十メートルくらいでしょうか。浅いと言ってもそれなりの深さは有りそうですね。今日渡るのは正直しんどいです。服は乾きましたけど、靴はまだ生乾きです。臭くなるパターンです。勿論渡るときは脱いで行きますが、今日もう一回あの冷たい水に浸かる気にはなれません。
魚でも居ないかと水面を見つめます。居ます居ます!沢山居ます!鮎くらいのからもう少し大きいのまで!
ただ、獲る手段がありません・・・。仮に獲れても調理出来ません・・・。
原始人みたいに木の摩擦で火を起こせばいいじゃん!って思ったでしょ?あれ、去年の会社のバーベキューの時にやらされたんです。しっかりした道具と材料を用意して尚、物凄く時間がかかりました。おまけに恐ろしく体力を消耗するんです。因みにその時は弓式火起こし器でした。勿論僕が火を起こしてる間にもうバーベキューは始まってましたよ?それが何か?
今日はもう薪を集めている時間も、道具を作る時間も、火を起こす時間もありません。
ゴブさんや、他の怖いのが来たらすぐ逃げられるように周りを警戒しながらの探索です。疲れます。
その時、岩の陰に何か違和感を覚えました。よく見ると見慣れた緑色がちらりと見えます。そう、ゴブ色です。
今更ながらに思います。ゴブさんのあの色は森林迷彩なんですね。最初は岩に生えた苔と見分けがつきませんでした。
それはともかく・・・僕は動きを止めて音を立てないように緊張します。ゆっくり回りを見回して他にゴブさんは居ないか確認します。静かにしゃがみ、しばらく沈思黙考です。
位置的にゴブ色が見るのは水面すれすれです。岩の陰と川原の石の間に見えます。岩はゴブさんの身長よりは低く、しゃがめば隠れられるでしょうが、無理な姿勢になるはずです。
ゴブ色はピクリとも動きません・・・