106
先日、森のとある樹の幹に開いた洞に、凍り付いた樹脂先生が詰まっているのを発見し、掘り出して家に連れて帰りました。
暖炉の傍に置いて解凍すると、元気に復活したので、冬の間は彼に毛皮のなめしや生ごみの処理をお願いしています。
今ではリビングからキッチンに下りる二段程の階段の脇が定位置になり、我が家の一員になっていますよ。
たまに夜中トイレに起きたネイが寝ぼけて踏んづけ、「Myaaaaaaaaaaa!!」と甲高い悲鳴を上げていますが、踏まれた先生はどこ吹く風です。核だけは踏まないであげてね。
ある日の事です。
さすがにフル装備で雪中行軍する気はおきず、トンボスーツに防寒着、ミスリルボウ、バスタードソード、ミスリルハンティングナイフ、ミスリルボーラという、軽いハンタースタイルでのお出かけです。
ネイは寒がりで外に出たがりませんので、寂しいですけど僕一人です。
しかしこの世界のトンボはタフですね。こんなに雪深いのに一年中元気に飛び回っています。
この時期のトンボの色は雪のように白いですね。ファンタジー感溢れた幻想的な光景です。
そんな綺麗なトンボを見つける都度、ミスリルワイアーで組んだボーラを投げて捕獲します。
何匹目かの白トンボと兎のような獲物を首尾よく狩り、他の獲物を物色していると、割と近くで激しい闘争音が聞こえてきました。
ネコ科の猛獣みたいな鳴声のと、この音はトンボの編隊ですね。
過ぎし日のゴブさんvsトンボのデスマッチを思い起こします。いやー、弱肉強食ですね。
それではお約束、漁夫の利を狙いたいと思います!
しかし、このネコ科の猛獣のような声は聞いた事がありません。
新手の動物、或いはモンスターのようですが、トンボと互角に争うくらいなら大した事無いのかな?
いやいや!慢心は駄目です!!
対空では苦戦しても、対地では無双するかも知れません。
気を引き締めてこっそり覗き、手強そうなら見なかった事にしてそのまま撤退しましょう。
雪の上をスキーを滑らせ、弓を構えつつ樹の陰から覗いて見ます。
果たしてそこには四匹の白トンボと、大きな豹のような動物が激しく争っていました。
美しい獣です。豹にしては長毛で、胸からお腹に掛けての毛が特に長く、狼のようにフサフサですが、柄はまさにヒョウ柄。色は淡灰色と白、斑点は濃い灰色です。
まるでロン毛の雪豹のようです。大きいのが一匹、小さいのが二匹。
白トンボはその小さい子供ロン毛雪豹を狙っており、母ロン毛雪豹がそれを阻止しているの図です。
母ロン毛雪豹はロン毛でも隠せないくらいガリガリに痩せており、あちこち怪我をしているのかその長い体毛を血で汚しています。
あ、囮白トンボの誘いに乗った母ロン毛雪豹の後方上空から、音も無くアタッカー白トンボが滑空して母ロン毛雪豹の首筋に取りつきました!
トンボの必勝パターンです!
どうしよう、助けた方が良いのかな?子供いるみたいだし・・・
頭ではためらっていましたが、体は動いてました。
無意識のうちに一の矢を、続いて二の矢・・・
三の矢は流石にまだ筋肉がついて行きません!
二矢で一匹の白トンボを墜とし、弓を置いてもう一匹をボーラで絡みつかせて雪の上に這わせます。
最後の二匹は逃げて行きました。
大丈夫!?
駆け寄ろうとする僕に母ロン毛雪豹の反応は
Syaaaaaaaaa!!
そりゃそうですよね・・・
さて、どうしたもんでしょう。
ズタボロに怪我した母ロン毛雪豹と寄り添ってブルブルと震えている子供ロン毛雪豹・・・
何度そっと近寄ろうとしても、母ロン毛雪豹は首の毛を逆立てて僕の接近を拒みます。
結局どうやっても近寄らせてもらえなかった僕は、さっき狩った兎のような獲物をそっとその場に置いて立ち去りました。
これがきっかけでこのツンデレのロン毛雪豹と、つかず離れずの長い付き合いになるのですが、それはまた別のお話・・・