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おめっ!
浅い!
僕の送った刺突は王様半魚人の左肩を浅く刺しただけでした。
しかし、足に絡みついた二個目のボーラがいい仕事をしてくれています。
膝の辺りに絡みついたボーラの紐は今度は親蜘蛛の糸です。
左右に逃げ場のある場所では絡みつかせる自信がありませんでしたが、動きが制限される橋の上なら成功する確率が上がると踏んでいました。
たたらを踏むような自らの動きで、足に裂傷を負っていく王様半魚人ですが、硬いウロコに邪魔されて、糸は浅手を負わせるのみ!
しかし、決定力に欠ける僕の十八番は、チクチクDPSの回転上げる事こそ真骨頂!
さあ!嫌がらせを続けようではありませんか!!
王様半魚人は足に絡みついた糸を無理やり外し、血塗れになりながらこちらに大口を開けて再度威嚇。相当イラついています!
この時を待ってました!袖箭GO!!
世界初!?袖箭のクイックドロウ!!
元の世界は判りませんが、多分この世界では世界初!ベルトに挟んだ二本の内、一本を抜き打ちで発射!
狙い違わず高速で飛び出した矢は王様半魚人の口に飛び込んで行きます!
これは念のための布石でもあります。迂闊にブレスを使おうとすると、大怪我するという警告です。
矢は左上顎を突き破り、猪の牙のように外側にはみ出て止まりました。
ですが致命傷ではありません!
この隙を突いて突き突き突きっ!
モーションの少ない突きは随分練習しました。
遠距離のメインウェポンが弓なら、近距離のメインウェポンはこの片鎌槍です。
僕だって狩に採集にと明け暮れていた訳ではありません。シロウトながら、自らの命を預ける武器の鍛錬ぐらいします!
しかし、それが通じるとは限らないんですよね・・・
表面の鱗を数枚剥いだだけで、僕の攻撃は紙一重、いや鱗一重に躱されます。
さすが野生の反射神経!
でも、攻撃の手は休められません。突きから、薙ぎ、そして突き!
王様半魚人は、左手が不随、右手で握る薙刀には腕ごとボーラが巻き付き細かい動きを阻害しています。しかも足は浅手ですが、血塗れ、畳みかけたい所!
焦ったのかもしれません。敵の誘いに乗ってしまったのかもしれません。気付けば片鎌槍の扱いがかなり大振りになっています。
王様半魚人は防御に徹し、じっと反撃のチャンスを狙っていたのでしょう。
槍を引き戻して一歩前へ踏み出し、片鎌槍に体重を乗せ、全力の突きを放った僕の攻撃は、絶妙にインパクトのタイミングをずらした王様半魚人のカウンターで防がれ、あまつさえ片鎌槍を叩き折られてしまいました!
僕の手からすっぽ抜けるくの字に折られた槍・・・
見送っている場合じゃありません!
返す刀で切り上げられる薙刀の斬撃を躱せたのは僕の反射神経ではなく、単にボーラが邪魔で柔軟に薙刀が振るえなかっただけでしょう。
橋の中央に戻された僕はバスタードソードを引き抜きます。
やっぱり盾が欲しいかな?
無事に帰れたら考えましょう。今は王様半魚人を倒す事!
王様半魚人は口に溜まった血をベッと吐き出すと、ゆっくりと橋を渡って来ました。
得物のリーチは明らかに僕が不利です。
僕は右手にバスタードソードを持ち、左手で腰に差したもう一本の袖箭を構えます。むしろ袖箭は見せつけるように前に出します。
リーチは敵わないけど、射程はぼくのが上!
迂闊に攻撃して来たら痛い目に遭わせてやりましょう!