96
近くで見るとつくづく不気味です。
皺の寄った病的に白い肌、対照的に艶やかな鱗、目の無い顔・・・
かなりの猫背ですけど、身長は僕より大きいでしょう。足も太く、腿は僕の胴回りくらいあるかもしれません。
対して腕は細く一見華奢に見ますが、その他のパーツが太いせいでそう見えるだけで、実は僕よりはるかに逞しい腕です。
その腕に握られているのが長大な薙刀です。
のっしのっしと滑らかに歩を進める姿は奇妙に現実感がなく、等身大のフィギュアか、VRのCGのように見えます。
王様半魚人の得物は、僕の片鎌槍とリーチではいい勝負ですが、重量ではまったく敵いません。つまり打ち合いは僕に不利。
いや、筋肉でも負けてるんで、肉弾戦は全部不利なんですけどね。
王様半魚人は橋の袂まで来ると、まるで挨拶でもするように頭を高く上げ、首周りのヒレを広げました。
明らかに威嚇していますね!
威嚇なんか改めてしなくても、僕はもう充分萎縮してますって!
薙刀の刃の部分は例によって水銀先生製でしょう。向こうの方が肉厚で質量があれば、同じ材質でもこちらが当たり負けします。
向こうは薙ぎ払いが得意、こっちは突きが得意・・・
では、足場が悪く、狭い通路ではどちらが不利でしょう。
答えはそんなの関係なくヘタレな僕が不利!
王様半魚人が、橋に差しかかりました。
僕は片鎌槍を右手一本で掻い込み、半身で一歩踏み出して突き!
これは牽制です。薙刀で払ってくれれば、柄を返して、そっとその背中を押してあげようと思っていたのですが、そんなに簡単には行かないですよね。
ぱかーんと勢い良く払われて逆に僕が体勢を崩す始末。王様半魚人は体幹がしっかりしていてウェイトもあるのでびくともしていません。
ヤバイ、地力の差が明らかに出ています。
デスペアの時程の絶望的な差は感じませんけど、ここまでの快進撃?快後退?がウソのように追い詰められています。
僕はゆっくりと下がります。橋の上で、しかも直線でもないので、スーパーへっぴり腰なのは承知の上。
左手で腰から静かに即席武器を取り出します。
ボーラと言います。
東南アジア発祥と言われていますが、南北アメリカで良く使われていた投擲狩猟用具です。構造は簡単。三又の紐の先端に重りの石を括りつけただけ。
これを投げつけ、当たれば遠心力で紐が巻き付き拘束するという道具ですね。
三又の紐の長さはそれぞれ1m以上あります。これは初お目見えだから知らないでしょう!
ブンッ!と投げます!
何で察知できるのか全くの謎ですが、王様半魚人はゴルフでもするように石を打ち返そうとします。
しかし、石はもう二個あります!上手く右手と薙刀に絡んでくれました。
続いてもう一つの武器を投げます!
これは親蜘蛛の糸に石を括りつけただけの物です。ボーラと同じ要領でブンブンと二回振り回して投げつけました。
王様半魚人は左腕で受けます。巻き付いた!!
僕は力の限り糸を引きます!
必殺仕事人の三味線糸では無いですが、これはもっと凶悪な糸です。僕の腕力では骨まで断ち切るまでは行きませんが、腱を切る事は出来たようです!
最初のボーラはフェイント、ホントの狙いはこれです!
すぐに薙刀でブツっと切られましたが構いません!
すかさずボーラをもう一つ!
サイドスローで放ります!これもフェイントではありません。
今度は迂闊に腕で防ごうとしません。後ろに飛び跳ねて避けようとしますが、ボーラの軌道上です!
この距離で避けられるかーい!
二個目のボーラは王様半魚人の足に絡みました!
すかさず、踏み込んで渾身の突き!
やった!刺さった!
良いお年を!
年内にこの章終わんなかった・・・