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とにかく一旦休める場所を探しましょう。幸いにもゴブさんたちはあの崖を下りては来れないようですし、新たな敵が出てこない限り、とりあえずの危機は脱したようです。
優先順位の一番は服を乾かす事。
二番は出来れば体を休め、体温の低下を防ぐ事。今の時間は午後零時過ぎ、この世界の時間でもそうなのかは分かりませんが、太陽の位置からは不自然ではありません。
三番目はバスへの帰還。僕はこう見えてプロのボッチですが、この状況ではさすがに仲間が欲しいです。
四番目からは正直迷います。人里への移動が先か、食料の確保が先か・・・
あまりの寒さに歯の根が合いません。もう一つの差し迫った危機です。低体温症になると、判断力が落ち、錯乱状態に陥る事もあるそうです。
ジャケットを脱いで可能な限り絞ります。お昼とは言え春の空気は容赦なく体温を奪っていきます。
歩きながらポロシャツも脱ぎ、絞って体を拭います。乾いた状態ですと気化熱を防げ、かなり改善できます。絞ったポロシャツだけを着て、ジャケットはなるべく乾くように手で持って彷徨います。
歩きながらさらに周りも観察します。この森は日本で言えば、軽井沢のような高原の森に近いかもしれません。起伏に富んだ地形で、あちこち巨岩が墓碑の様にそそり立っています。広葉樹林の森なので、緯度的にはそんなに高くは無いでしょう。まばらに木漏れ日が差し、下草も多くなく、マイナスイオンたっぷりです。ただ今の状況でマイナスと聞くと、言葉だけで体温を奪われそうで寒いです!
がたがた震えながら森を歩くと、明るい場所に出ました。
朽ちた木が倒れる事によって出来た自然の広場のようです。南中した日が差す事によって地面に積もった落ち葉も乾燥し、見るからに暖かそうなカーペットです!
思わず世紀末モヒカンのように喜びの声を上げそうになりますが、出て来た声は掠れた咳ばかりです。自分で思っているより消耗してますね。やばいやばい。
僕は倒木と岩の間に出来た隙間に座り込みます。ここなら周りからそう簡単には見えないでしょう。少し休憩することにします。
乾いた落ち葉を集めて防寒クッションを作ります。続いてスニーカーと靴下を脱いで可能な限り絞り、温かい岩に、外から見えない角度で干します。さらにズボンとジャケットも同様に干し、ポロシャツも考えた末干します。
今敵が現れたら僕は、ナイフクリアどころかパンイチ異世界クリアという離れ業を成し遂げなければなりません。まあ、クリアが有ればの話ですけど・・・
僕は太陽の光で温められたヌクヌクの落ち葉にくるまり、やっと一息付けました。
しかし僕はなんて幸運なんでしょうか。こういう時は辛い事を考えず、ラッキー部分を抽出しましょう!自然と気力が湧いてきますよ!