描いた夢
古木の受付の人に向けた助言じみた言葉はきっとあの人の心にはびこるだろう。市橋は行動を共にしていても影響を受けるようなものなのだ。専門学校は妙なあわただしさを残していた。だけど、少しだけ安心をしているようにも思えてならなかった。応接室へと向かい、コーヒーを差し出していた。
「お待たせしました。まさか、こんなところに警察が入るなんて想像していなかったもので・・・。」
急いできたのだろう。汗をハンカチで拭きながら言った。
「入試課の保住です。」
古木は写真を見せた。保住は何処かのぞき込むかのように見ていた。見覚えがなければ終わる話だが、少しでもいい話が聴ければと思ったくらいなのだ。
「彼なら覚えてますよ。だって彼は来ていた人の中で一番意欲があったんですよ。彼に斎藤達郎さんが講師としてくるといったらとても喜んでいたんです。印象的でしたよ。花の咲いた顔を消えないんです。」
「彼言ってませんでした?斎藤達郎の孫だと。」
「いいえ、そんなこと言っていたらこんなところに入ってくれるなんてと思うばかりですよ。それもおじいさんと同じ道を行くのが簡単じゃないだという悟った顔も含んでいたのかもしれませんね。こちらからパンフレットを届けるみたいなことを言った覚えがありますね。」
保住は驚いた表情の後に思い出したのか次々と息づく間もなく言ったのだった。皆川卓はかなり本気であったのだろうから。祖父のいじめに対して犯行的であったのは思う心であったのだ。卓の言葉は簡単であったわけではないのだろうから。答えが見えたからきっと同じ道を選ぶのだろうから。
「彼の印象はいいんですね。」
「そうですよ。彼の人柄が文字に出ていると思います。見せていただいた作品は優しさにあふれていましたから。内容はサスペンスを含んでもいましたね。講師の人も褒めてましたからね。かなり此処に入るとか言ってました。そうですか・・・。彼が斎藤達郎さんのお孫さんだったんですね。」
「聞いていたんですか?彼が作家になりたがっているということを。」
「えぇ、斎藤達郎さんは嬉しそうに言ってました。孫でありながら弟子に近い人間でもあると以前言ってました。だから、休みの度に来ているから友達とはどうなっているんだと問いただしたことがあるって。そしたら、親友とかには言ってある。夢ってのは簡単に消えないのを知っているだろう。手に届かない雲をつかむようなことを言うのは人としていいことだといっていたと。」
卓の決意に戦えなかったのだろう。




