光の意味
古木はマスターの行動を見ている。せかせかしているふりをしているのは確かであるが、突っ込む必要もないだろう。
「市橋、戻るか?」
「はい。かえってきてますよね。」
「たぶん、待ちくたびれているよ。けど、あいつらにも寄り道をしろといっているから構わない。情報は転がっているのに拾いもしないのはいけないだろう。」
忖度を好まない人間なのだろう。忖度するのは別にいいが、迷惑というものにかかわってくると違ってくるのだ。同じ立場を共通認識をさせておくことがいかにいいかを伝わらせている。マスターがひょっこり出てきた。
「市橋君はいい上司に出会ったんだね。君の同期だった浅利君、やめたみたいだよ。やっと刑事になれたとか言って喜んでいた矢先だよ。もともと誰かに罪を着せるために行かせたとかいう噂が立ってね。ダメだね。その上司から天下り先を言われたけど断ったらしい。何時までも付き合うなんてこりごりだって。時々くるから会えるよ。近くの会社で働いているみたいだから。」
「そうですか・・・。残念です。俺の尊敬していた人だったから。浅利は天下り先を言われたのか。」
「その事件は解決してないな。野放しのいいところだ。どうせろくな政治家がかかわってないんだろ。政治家と立ち向かうのが正義だ。警察としている意味がないじゃないか。手本が悪行を働いて聞く奴がいるかよ。何を言ってるんだとしか思われないぞ。」
彼の言い分は逆らえない。むしろ、逆らう気力すら持たせない。手本ぶっているだけの仮面は外すべきなのだ。明らかにわかるだろう。誰がそんな奴の言うことを首を縦に振るだろうか。聞くほうが阿呆らしいとしか思えなくなる。
「浅利に会ってみますよ。事件が終わってきりがついたらですけどね。」
「あったほうがいい。浅利というやつはな、絶望したんだよ。憧れの世界がいかに穢れているかをまざまざと見せられて。お前がそれを脱色しているといってやるんだ。俺は穢れた場所を望まないってな。」
「はい。マスター、有難うございました。」
少し沈んだ声で言った。明るい顔で沈んだ声で返すしか残っていなかった。
「また、来るといい。俺は何時でも待ってるよ。いい上司であえたんだ。その出会いを無駄にするんじゃないぞ。」
背中を押された言葉を重く温かいものだった。穢れた場所にいながら帰るのだ。それをしていることに笑えて来てしまう。市橋の大きな壁へと立ち向かう勇気とかすかな光を感じた。




