風の奪う
くだらないことで笑うことがいかに難しいかを思うばかり。テレビで映るあざ笑った表情や冷たい言葉でしか返せない政治家を裁く法はないだろう。裁判官が愚かな行為を行っても最低限以下のことしかできないのだろう。市橋が頭の中で考えているのは無論、小さな砂に過ぎないことなのだ。吐き出さなかったら誰も伝わらない。政治家はそれを望むのだ。選挙だといって紙きれの価値を重視してしまった上の天災を免れなかった。悪化したのに傷の上塗りをしている。
「こら、市橋。何、1人で悩んでいる。」
「大したことじゃないですよ。政治家は愚かだとみじめだという人間はいなんて世の中が憎いですよ。できないじゃないだって。あきらめているのでしょうから。」
うまいコーヒーをすすった。何年振りだろうか。制服警官でいたころは感じなかった。休憩の大切が。マスターは昔話に花を咲かせていたが、途中で席を外したのはマスター故だ。
「政治家か。そうだよな。マスコミがこぞってたたいたとしても隠した仮面をちらつかせているのだろうから。殺人鬼だとしか言えないよ。悩んでいないんだよ。自分の都合を畳みかけて砂を崩しているんだよ。汚職をするのは何をやっても許されるという愚かで未熟で卑怯な考えからもたらせるものなんだよ。」
「殺人鬼ですか。かなり大げさな比喩ですね。」
「そうか?あってると思ってるぞ。悲しみのない世界に行ったんだって。事件が起きても権力を頼って順位を上げるという甘えをつかせたのは警察自身。身内を守るなんて言うバカげたことをしたら表に堂々とする勇気がないけどな。キャリアだのノンキャリアだの言ってたら大切なものをあっさり失うんだよ。」
古木は優しさを見せていた。口から出た言葉を聞くよりも行動を見ているほうがよっぽど答えに近いのだと。
「話変わりますけど、安西さんのことをどう思ってるんですか?」
「俺は人生の分岐点としか思ってないよ。だってさ。一部なんだ。人生という道の中に崖や丘や山があってもおかしくないんだからさ。あれは運命なんだよ。」
運命だと古木は口では言っているが、表情は痛みを感じているのだろう。矛盾を提示する覚悟はないのだろうから。守るものが近くにあっても気づけないのだろう。自分を守ることができなくなった彼は憎しみを自分に与えることしかできなかったのだ。風はなびくのは何が過ぎたときと自然現象なのだと。だが、感情というのは無関心もあふれているのだ。




