時間の流れと時計の針
安西と皆川の何処か晴れない心を見ていられなくなったのだ。古木は素知らぬふりを演じているようにしか思えなかった。豪邸を出ていても何処かで眺めていそうにで、それがみじめだとか思ってしまう感情もみじめで答えの見えない迷宮に望んで入ってしまったかのようだ。車ではいつものままだった。音楽をかき鳴らす。新曲も更新しているところはすごいなと感じてしまう。横顔でしか見えなくて何を考えているのかわからぬような能面をつけているのだろう。無論、抵抗力をもっていないのだろうから。
「班長、何処か喫茶店へ寄りませんか?」
「いいな。お気に入りの店が近くにあるのか。」
「はい。制服の時に世話になった喫茶店なんです。見回りをしてそこに通る時間に店主がコーヒーを作って待ってくれるんですよ。お礼も言わずに行ったので少しばかりの挨拶をしたいんです。」
古木は懐かしむ市橋に対していいと思っているのだろう。町に飲み込まれないようにしているのに、漂うことを求めているのだろうから。ついた古びた感じのいい喫茶店だった。車を止めた。市橋は何処か駆け足になって店内に入った。古木は追いかけるようにゆっくり歩いて行った。ドアを開けるとカランカランとなりだした。
「市橋君、来てくれたのか。確か、警視庁の捜査一課とか偉いところに行ったから来ないのかと思っていたよ。」
「マスターにはよくしてもらったんですよ。恩をあだで返すのは嫌なんですよ。それに此処に来るのは容易なんだから時々くるよ。」
テーブル席に座って注文なくとも出てくるあたりが通っていた証を見せられているようだった。古木はそのテーブルに座ってコーヒーとおすすめのケーキを頼んだ。時間的にいいころだと思ったのだ。
「そうだ。マスター、俺の前に座っている人が今いる班の班長の古木さん。来た時は必ず俺の言う通りにしてくれよ。」
「わかったよ。初めまして。此処のマスターをしています。古木って聞いたことのある苗字ですよね。・・・もしかして、古木古書店の息子さんですか?」
マスターの中年男性はぎこちなく聞いている姿は笑えてしまう。市橋の言うことを聞くのはすごい。
「そうですよ。ただ次男坊なんでね。継ぐことができなかったんですよ。」
「そうですか。だから、警察に入ったんですか?」
「違いますよ。親父がある事件のことで本のことを聞かれたときに本に興味がなかった人でそれが嫌だったから息子を警察に入れることを考えたみたいです。くだらないでしょ。」
笑いを誘う言い方はうまいなと思った。




