あたりの数
「そんなくだらなことを水沢は貴方に伝えたんですか?関係ないことを・・・。」
「何言ってるの。貴方は私の所為で自殺を繰り返しているのに・・・。関係ないことはないでしょ。それに奥さんだっているし、子供さんもいると聞いているの。・・・まだ・・・繰り返すの・・・。」
安西はできる限りの抵抗をしている。死ぬことを選んでいるのを間違いだと伝えているのだろうが、今の古木には響くのだろうか。空虚に浮かぶ雲のようにふわふわと漂って消えてくだけなのだろうとしか思えなかった。彼のこぶしは固くなっていた。
「俺のことはいいんですよ。安西さん。自分の人生を生きてください。って言っても無駄ですかね。」
冷たい言葉を振りかざしている。光は彼を見逃せなかった。失うと思って見捨てることができなかったといっていたが、今ならわかる気がした。市橋は口を出して変な方向に導かれては嫌なので傍観者になるしかなかった。後ろに気配があった。
「こら、安西さん。玄関で長話をしないでおくれ。俺は嫌なんだ。」
「すいません。」
素直に謝っている姿からは古木に言った言葉が到底考えられなかった。彼女はきっと八つ当たりをしたのだろう。その八つ当たりが思わぬ方向へ導いてしまったことを聞いてしまった。だから、家政婦として近くにいて説得しておきたかったのかもしれないと思った。
「いいですよ。実継さん。ちょうど話が終わったところですから。中に入って実継さんに話したいことがあるんです。」
表情が柔らかくなり、淡々と対応をしていた。古木を見てられなくなっていた。豪邸に入って行った。安西はあの会話以降入ってこようとしはしなかった。苦虫をかんだかのような表情を時々繰り返していた。市橋は対応がうまくできないことが嫌になる。古木と皆川は別の部屋で2人で話したいといったのでリビングで待った。彼女は家政婦として全うしている。
「安西さん、何時か謝れればいいんですよ。無理するといざこざが起きてしまっては困りますから・・・。」
「いいや、もう起きてるの。古木君が私の息子と仲が良かったことを知らなかったの。息子は焼けに寛容だったこともあってよく話していたらしいの。警察をやめたら作家か編集者になるっていう話は今はなかったことになっているし・・・。」
「・・・。」
返す言葉を持ち合わせていないというのは愚かであると心底思ってしまった。八つ当たりだったのだろうか。彼女は本当に思ったのだろうか。奪ってしまったのは夢だけじゃなかったのだと。




