傾いた天秤
安西という殉職した警察官のことを多く語るのを嫌がる理由はわかっている。渡辺も小寺も水沢も口をつぐむのだ。事件を追っていきながら何処かでひやひやしているのは態度では出なくても映っている。市橋はそれに巻き込まれてはならないと思っている。
「二課の人も言うこと聞いてくれるんですね。班長はなら・・・。ある意味、班長の特権ですよ。」
「俺は事件を解決するのに管轄だの本庁だの言っているのがバカげているから交換するのがいいって言っただけだ。それでも嫌な奴は凝り固まったものしか受け入れないんだよ。時間を割いてそれだけかよってな。」
吐き出している言葉を言い方は悪いかもしれないが、事実を言っているために上は言い返せない。やめるといわれるのを恐れているのだろう。市橋の思惑もないからいいのだろう。
「古木はいいんだよ。市橋。俺たちも共有してくれるんだ。独占を好まない班は少ないんだよ。むしろ、大人数のほうが解決することだってあるだろう。」
水沢の胸を張った言い方に何処かすがすがしさを感じてしまう。むきになっているわけでもない。ただ、主張することを悪であると思っていないのだから。隠された証拠を探すのだ。
「共有するにしても会議は気に入らないんだよ。上の勝手な判断が組みこなれるのは嫌いだからな。下でもいい考えの奴は取り込まないと一生迷宮入りした事件と付き合う覚悟もない奴が言うなって思ってしまうんだよ。勝手な無責任の塊が偉そうにしているから気に入らないだけさ。足で稼ぐことの豊かさを知るべきなんだ。」
上から現場を見てもわかるものもわからなくなる。だから今、政治家は愚かを堂々としているのだ。ギャンブルごときと天災を天秤にかけてどや顔をしているのだ。優先するべきこともわからないのか。違うとか言っているがどう違うのか比較もなければろくな説明もない。決まってからするのでは遅いとは思わないのか。説明するのが嫌ならやめてしまえばいい。議席も減らせと言われているのにどう転換したら増やすという発想になるのか。金を奪い取りたいだけなのではないだろうか。政治家には聴く耳がない。高台にいて叫ばれても聞こえないのだ。近くにいても聞こえないのだ。
「ぼやいても愚痴ってもわからないやつには意味ないのは知っているんだ。煩悩の塊なのだろうな。おぼれてしまえばいいんだ。」
水沢も古木もうなずく。それほど憎きものを知っているのだ。復讐もあったりするのも知っているから。




