表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陽炎と泡沫  作者: 実嵐
63/109

切り札のかけら

小寺の口から語られるのは絶望を感じるものであった。立ち止まっていてはいけないことは言われなくてもわかっている。市橋は沈黙をかき消したくて自販機で缶コーヒーを買った。2本。

「飲んでください。」

「まさか、新入りに気を使われるなんて俺もダメだな。」

「そんなことはないですよ。むしろ、知るべきだと思ってました。安西さんっていう方は班長を恨んでいないんですよね。」

尋ねるのは確認のためだが、答えによって答えられないものだ。古木を見つめることがあるのだ。追いかけることを選んだのだろう。

「妙な事で落ち込んでいるとあいつが察することがあるぞ。気をつけろ。俺だって思ったさ。だがな、抗っても抗ってもしょうがないのだ。」

水沢を思っていることをすらすらと包むのだ。安い言葉を連ねるのは時間の無駄なのだ。何処まで感じているのだろうから。真実から逃れないことが大切なのだろう。

「安西はいい警官だったよ。あいつと相対するところもあったが、懐が大きいのか受け入れていた。多様な考えがあると思っていたんだろうな。性格もよかったから刑事に上がる話も持ち上がっていた矢先だったよ。あの話を喜んでいたのは古木だ。自分よりも大切なものを守ってくれるってな。」

「安西さんは刑事になる予定だったんですか?」

「そう。けど、殉職に会って上はどうすることもできなくなって古木が実力があるからといって刑事に上げる話が出た。俺はそうなればどうなるかくらいわかる。口には出さないが、隠しているだけで見えないだけで素直だから。俺が近くにいる条件を受け入れもらってなったんだ。」

あの事件の傷はいえることはなかった。むしろ、悪化をもたらしていた。そこに小寺と渡辺は古木を心配していた。そこでおこがましいかもしれないが、残ってほしいと伝えたのだ。2人は笑顔で答えてくれた。構わないと。もともと噂で来ただけであり、あんなに思ってくれる人を見守ることくらい容易であるといった。出世に興味はなく、事件を追いかけることで遺族や加害者がなぜそこまでに至ったのかを探っているほうがいいと。腕の良かった古木の技術をもって今に至る。自分の部下よりもいいため、頼りたいと思うばかりである。

「油断はいけない。支えになるのは事件のかけらだ。何処かで見落とすとダメなのだよ。」

官僚も政治家も改ざんを都合の良い言葉で置き換えていく時代なのだ。書き換えはどうしたときの切り札なのだろう。切り札を使い切った紙をどうするのだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ