抗う道
CDショップは狭いながらもどこか広く感じた。それは単に店主の人柄と言い切ってしまえば早い話なのかもしれない。あるいは希望が薄れていないという安易なものかもしれない。市橋は呆然と店の中で立っていた。とりわけ気にする人間はいないなどと思っているが、隣にいる水沢は心底心配しているようだ。
「うちは閑古鳥が鳴いていますが、あの古書店ができたおかげで商店街は潤っているんですよ。・・・商売ってそんなものだと割り切ってしまえば楽なものですよ。」
日時を指定して防犯カメラを大きな画面で見つめていた。古書店の袋は質素なものであることはわかっている。中身が見えるかという問題だけであった。店内で入れてしまえばわからなくなってしまう。
「いましたね。」
「鑑識行きだな。ここでは明らかにすることは不可能だ。」
「そうですね。データをいただけますか?」
店主の晴れやかな笑みを見せた。懐の大きさに驚いているが、かまわないのだろう。店主は丁寧に簡易ではあるが梱包をしてくれた。
「そういえば・・・。水沢さん、古木さんからCDを買ってもらっていて、確か、水沢とか言っていたから。」
「俺が好きなアーティストのCDが出ることを知っていたのか。どれだけ情報が早いんだ。」
ぼやくしか行き場をなくした言葉は空気とともに消し去った。丁寧に包まれた中身には確かに最近発売になったものだった。無気力に見せるのも一つの手ではあるのだ。事件が終わったら、切れ目がよかったら渡すつもりであった品であったのだろう。今もらっても邪魔だとは思わない。
「うちには固定客として古木さん家が来てるからありがたいんですよ。なんだかんだいって世話になっているからね。」
「そうですか。」
そんな相手だから嫉妬を持たなかったのかもしれない。むしろ、喧嘩を売る相手ではないことくらいわかっているのだろうか。店主に聞けば愚問だと思われるのが嫌で小寺の心の中で留めておくことを選んだ。水沢は受け取ったCDを見つめている。かなりうれしいのだろう。仕事ばかりじゃ張り詰めた気は逃れるところを知らない。無論、ためておくことは有無を言わさず行ってしまうのに・・・。
「小寺、かえるぞ。」
「はい、ありがとうございました。」
店主に頭を下げて路地へと出た。収穫もあったのだ。ただ人物特定をするには難しいのだ。機械の力を借りる必要が起こる。それには抗っても抗っても仕方がない。抗えないところまできているのだから。




