地位選び
家政婦紹介所についた。何処にでもあるビルの中にあるのだと思った。今は仕事のためにと考えることは少ないと思った。古木は無表情を装っているように映った。何かを隠して生きていることに自分自身が耐えられなくなってしまっているのだ。躊躇なくビルの中に入った。古びたビルなのは格安で売っていたから間借りした限りだろう。お粗末なほどのドアに会社の名前が書かれていた。今はネット社会であるから豪勢である必要がなくなった。一応の受付に行った。彼は警察手帳を出した。
「安西さんについて聞かせてくれませんか?仲が良い人とかいればその方と話がしたいんですが・・・。」
「わかりました。湯浅さんは過去の顧客だとは言えなくなったのは事実です。それから逃れられないですから。手越さん。」
手越と呼ばれた女性は誠実さはまるで感じられなかった。昔、遊んでいたのではないかと思われるほどお茶らけていた。応接室に案内された。いくら小さな会社でも顧客というのは重視するものなのだ。シンプルな家具でそろっていた。ソファとテーブルだけで棚などはなかった。机にはコーヒーがおかれていた。ミルクやシロップも隣に居場所のように。手越は緊張しているのか手が震えていた。
「緊張するほどではないと思いますが・・・。では、安西さんをどう思ってますか?」
「かなりストレートですね。印象的な人ではなかったですよ。だって入って来た時、息子さんをなくしていた時であったことも関わるような気がします。」
「息子さんは何をしていたとか言ってましたか?」
彼女は遠くを見つめた。思い出そうと必死なのがまじまじと伝わってくる。だが、一部の行動だけで聡明だとか判断するのには愚かなのだ。
「警察官でした。交番に勤めていたとか。だけど、勤務中に事件に巻き込まれてしまって死んだって。・・・でも安西さんは悪い人じゃないですよ。湯浅さんの時は特別ですから。」
「湯浅さんの時は特別とはどういうことですか?」
「此処の会社は決まった金額を支払いをされるんですけど、奥さんが金を高くしていい人を呼び寄せたいとか言って社長に言ったみたいです。それで安西さんが選ばれたんです。」
湯浅自身が制度を変えようとしていたのだ。そこから選ばれたとなると理由がありそうな気がしてしまうのは間違いなのか。
「すぐにやめましたよ。金で済む話じゃないって。わがままに振り回されるだけで・・・。今は皆川さんですからね。私は地位なんていらないんですよ。」




