抵抗力
水沢とひとしきり話した後、時間的にいいと思ったのか古木はそそくさと出て行った。それを追いかけるしかない市橋の状態を見て水沢は彼の肩をたたいて椅子に座った。そこには満足気な表情でもあった。
「頑張ってこい。相も変わらず振り回すあいつに付き合ってこい。古木はいい手本だから。」
「わかってます。いただけでわかりますから。」
市橋は照れ臭そうに笑うと水沢はそっけない態度をとっていたが、内心うれしいのではないのだろうかと思った。
「おい、市橋。おいていくぞ。」
「行きます。待ってください。」
廊下から呼び出しの声は心地よかった。制服警官をしたときでもこんな風に呼んでくれたことなんてなかった。擦り付けあったりするのに巻き込まれないように影を薄くするしかなかった。声のするほうに走り出した。廊下では古木が腕を組んで待っていた。不機嫌な感じには見えなかった。ふりをしているのは話をしている相手に心を許しているからであると思った。古木の歩き方は相手に歩幅を合わしているようだ。それが定義のように思えた。
「そういえば、言い忘れていたな。本、有難うな。」
「あれは水沢さんに頼まれたんです。遠藤博信の作品を買ってこいって言われたので・・・。従ったまでです。」
「けど、作品名を言っていないことをするとお前の勘は当たっているってことだ。警察でもあたるだろうな。」
落ち着いたように見えるがうれしいのがかすかに映っている。部下だとか上下関係は必要最低限としか思ってないのだろうから。車に乗るときに何時ものように音楽をかけだした。音量が小さくてもいい曲だと思ったのだ。
「いいですね。落ち着きます。」
「本当はいけないんだけどな。上が許可してくれてるんだ。抵抗することなく受け入れたまでだ。曲は光からの買いかぶりだ。家で何時も聞いているからそれを受け取ったんだ。」
「そうなんですね。」
光からの買いかぶりとか言っているが、男性グループの声と歌詞があっているのでファンと変わらないのではと思ってしまう。言えないことはないが、いうのは何処か憚れてしまうのだ。ルンルンとして運転をしている姿からは問題を抱えているのは嘘のようにならない。作り話をする必要がないことも理解の上なのだが・・・。世の中を見ていると嘘をつくことが定番になっている。過保護をしているのはしょせん自分自身なのだろうと思った。やめれば問われないという習慣を生み出して逃げている。そう思って仕方がない。




