守りたい影
病室に戻ると暇なのか昼寝をしている古木がいた。隣には心配そうな顔をした男性が座っていた。
「あのー、どちら様ですか?」
「さっき、炎火借りに行くときに会えてなかったからな。文雄さん。古木の兄貴だ。」
「どうも。弟が苦労を掛けてすみません。」
ベッドのそばによると腰を折った。苦しみから逃れることを選ぶことを選べなかったのだと。文雄は文庫本を読んでた。市橋が買ってきた本だった。
「好きな作家の本を買ってきてもらってうれしがっていたんだ。単純なんだ。俺がさ警察に入っていればこんなことは起こらなかった。詩郎も事件が終わったらって言ってるみたいだけど・・・。」
「そうだよ。兄貴、心配することはないからさ。」
詩郎の声は力がこもっていた。好きな本ほど丁寧に扱いというのではなく、全てを愛せなくてそれを振りまくことは不可能なのだと思うしかなかった。彼は起き上がって机に置いてあった紙を渡した。水沢は驚きもしなかった。
「よく此処まで書いたな。俺じゃ無理だぜ。」
「楽な仕事。俺にとってはね、文学オタクだといわれてののしられたころを思い出せばいい仕事だ。」
「それって・・・。」
「いじめを受けていたんだよ。俺も兄貴も。それも近くの学校だ。対象にされるのは決まりだからな。万引きとかされなかったのは不幸中の幸いとしか言えないな。」
過去を話すことを選ばずに噂を好まないのは今までのことを逃げられなかった。紙には全てが書かれていた。読むより早いくらいの分量でもあった。
「詩郎は・・・事実から逃れようとしか学校を匿名で警察に売ったんだ。教育委員会も学校も守りたいのは名誉で被害者を守ろうとしない教育機関はいらないとね。それでキチンと動いたんだ。第三者委員会を開いて嘘偽りを言っても見抜かれると知ってね。それはマスコミを味方にした。」
「親父の力を借りただけだ。兄貴も同じことをして事なきを得たまでだ。泣き寝入りなんて無様な世の中だ。名誉っていうのは何時か切れる期限付きの契約と変わらない。それにしがみつくのは嫌いだからな。それで調べたのか。水沢。」
なかったことをするように言った。寂しさを紛らわすために逃げたものを非難されたのだ。守れないと思っていない。
「斎藤の孫については知らない。俺はまだ詳しいことなんぞ調べていない。会議では湯浅の恨む人間といっている。」
「そんなものだろうな。凝り固まった理論は破綻したときの保証を奪われる。被害者を生み出すだけだ。」
詩郎がつぶやくだけで笑顔を振りまくことはできなかった。警察にいながら警察を敵対しているのだ。奪られるものに気づかないのだから。