空の色は・・・
ベンチに座っていると一止と誠治のはしゃぎ声を響かせていた。2人は外に遊ぶことはしないわけではないが、サッカーなどをしているのを見ない。公園などでする場所がなくなっていることも関係するのだ。光はベンチの下に空き缶を置いた。一時的な置き場なのだろう。
「後悔してないか?」
「何が?詩郎さんと結婚したこと。全く思ったことはないわ。きっとあの時声をかけていなかったらずっと後悔していたはずだわ。あの子たちの笑顔を生み出すのは構わないの。書くことしかできないとか言っていた時期もあったことを思えば懐かしいわ。刑事としてしっかりやっているそれでいいの。」
彼女の決意に満ちたものに対抗する手段もかすれるような言葉を言っても仕方がないので黙っていた。誠治が光のそばに駆け寄った。
「母さん、お父さんがね。僕たちの本を作ってくれるんだよ。ペンネームでって。それまで考えておけって言ってた。」
「そう、よかったわね。お父さんにお墨付きもらったから出版社の人達にも声をかけてみるわね。」
「うん。」
誠治は嬉しそうにうなずいていた。消えぬ笑みが象徴のように思えた。一止も近寄って来た。2人でこそこそと話している。
「お父さんから話しちゃダメだって言われてたじゃん。サプライズだって。でも、いいか。お父さん、この事件が終わったらやめるからって言ってたからね。聞いたことは内緒だよ。秘密だよ。」
「お兄ちゃんだってそうだろう。ほら、待ってるよ。遊ぼうよ。」
一止はせかされるようにいなくなった。市橋を気にしたのだろう。一止の言葉には聞き逃してはならないものがあった。
「事件が終わったらやめるって言ったみたいね。あの感じじゃ聞き入れないから決まりね。」
「あれか、斎藤達郎がかかわっているかもしれないからか。」
「家族ぐるみでかかわっているのに他人行儀にはできないでしょ。つらいのよ。嘘をつくのが苦手な人でもあるから。」
水沢は空を見上げた。晴れた空を雲が漂っている。つかむことができないとわかっていてもなおつかみたいと願うのは幻想だろうと思っていた。幻想だと抗っても抗っても近づいてくるものもあるのだ。声にならぬことが含まれている。机上のものを示して口で示して戦えるはずがないのだ。
「水沢さん、病室へ戻りましょ。あの人ならもう読み終わってるわ。集中力がすごいから。」
「そうだな。待ちくたびれているかもな。市橋、一止、誠治、戻るぞ。」
彼の呼びかけにぐずることのない姿は小学生なのだろうかと思う。それか父親に会いたいだけなのだろうか。