好奇心
佐々木に連れていかれた場所は若干騒がしいと思えるくらいのところだった。個室を探し出したのか笑顔を見せていた。
「すいませんね。こんな狭い場所に連れ来るなんておかしいですよね。古木さんの恩義を感じているのかわからないな。社長が辞めさせたも同然なのに・・・。」
個室に入って早々に独り言なのか区別がつかないほどの声の大きさで言った。市橋が少し怪訝な顔をすると彼は苦笑を見せた。ガラスのドアがノックの音がした。
「佐々木は・・・。」
「さぁ資料でも取りに行ったのでしょう。いませんよ。」
「そうですか。佐々木が来たら会議室が開いたからそこに行ってくれと伝えておいてください。社長が激怒しているんです。古木さんの代理にしてもキチンとしたところを明け渡せって。」
そういって伝えた彼はすがすがしい顔をして出て行った。佐々木といった男性は資料をもって会議室を連れて行ってくれた。お茶出しもしてくれている。社長のご立腹なことも社員として気にしなくてはならないのだろう。
「佐々木さん、さっき社長が辞めさせたも同然ってどういう意味ですか?」
「古木さんをヘッドハンティングしていた景色館とかにとられたくなって校閲になるように言ったらやめたんです。天職を見つけたのにどうして離れさそうとするのかといってね。数日後に退職届。スピードでしたよ。古書店を開いてやっていてフリーの編集者としてやっていると聞いて土下座をしてやっと最近ついてもらっているんです。」
社長の判断を間違えたのだろう。それを悔いている分、古木という名には敏感なのかもしれない。コーヒーを市橋はすすった。苦味が広がっている。
「それじゃあ詩郎さんもほしいんですか?」
「彼も道治さんと同じようになると思ってます。作家とフリーの編集者っていう感じで。文雄さんも同じ。絵里さんと光さんはエッセイを書いてもらってます。神崎一家には頭が下がります。」
「神崎一家っていうのは・・・?」
「ペンネームです。それよりこちらが炎火の原本です。隣にあるのは炎の館です。一応用意した限りですので・・・。」
古木は言っていた炎火がベースとなって炎の館が書かれたのだと。駄作と称されたものであったが腕次第で作品の色を変えることができるのだろう。
「分厚いのが炎火で少し薄いのが炎の館だとすれば簡単に判断することもできます。」
原本を恍惚社と書かれた紙封筒に別々に入れて最後には紙袋に入れる徹底ぶりだった。ある意味ビップ扱いを受けたのには衝撃だったが・・・。