架空持論
ビルの森に囲まれているのを車窓から眺めても思うばかり。市橋はため息をついた。そんなことをしているうちに恍惚社へとついた。
「お前、ため息ついたろ。ダメだぞ。幸せが逃げるとか言ってるだろう。」
「水沢さん、幸せなんか個人の主観ですからね。どれが幸せかは本人にもわからない哲学でしかないんです。」
「市橋は哲学の持ち主か。こりゃ大変だ。」
彼は大げさに言って大きなビルの中に入っていた。恍惚社は売れ行きが落ちているといわれているときに多くの話題の作品を作り出している。だから、此処まで大きなビルを持つことができるのだろう。かつかつと音をたてて受付へといった。
「なんでしょうか?」
「警視庁捜査一課のものですが、古木詩郎の件で話があるんです。」
机の下にある紙をペラペラとめくっていた。そこから該当する名を見つけたのか最初の怪訝そうな顔から作り笑顔、営業スマイルをばらまきだした。
「応接室が開いていないということなので担当の佐々木に会ってください。」
編集部なのか連れていかれた。応接室が開いていない。会議室が開いていないのだろう。駆け足気味でやってくる若者を見つけた。通り過ぎようとしているときに彼の表情が見えた。
「あぁ、水沢さんですか。道治さんから事情はうかがっています。俺の狭い机でもいいですか。今日はなぜかいつも以上に打ち合わせが建て込んじゃって・・・。すいません。」
彼の表情から平謝りとは見えなかった。佐々木についていった。市橋は素朴な疑問を感じた。
「光さんは何故、班長に惚れたんですか?前見たときなんだかいるのが場違いだった感じがしたので。」
「あぁ、あいつはな食事に行ってるときにいざござが起きたときにさ、警察手帳を見せることなく解決したんだ。誰も傷つけることもしなかった。」
光が言っていた。食事をとっているときに殴り合いに近い喧嘩が起きた。周りは騒然とする中で古木は重むろに立って喧嘩をしているほうに向かったのだ。みじめなほどの欲望をむき出しにした喧嘩を周りを考えずにするものじゃない。どちらかが傷害事件に発展されるのか目的か。前科をつけて汚名を一生持ったままで何を得たのだ。無論、たった1度の後悔を生むのだ。それは誰も助けを呼んでも見向きされないのだろうから。
「本当に伊達な人じゃないんですね。俺はあこがれるとしか・・・。」
「そんなものだよ。俺だってあいつにはなれない。それをわかっていながらもがいてしまうんだ。無理な話をね。」




