道の端
古木古書店を出た後、警視庁に一時戻った。捜査一課に戻ると小寺と渡辺が自分の机に向かっていた。
「水沢さん。」
「わかってるよ。今から用事ができたから要件をまとめておいてくれ。聞いているんだろ。古木から。」
「はい、水沢さんの指示には逆らうなと。」
古木から厚い信頼を受けているのには訳があるのだろう。市橋の肩をたたいて出かけてくるということを示した。表に出ると問いたくなった。
「班長はどうして水沢さんには心を許しているんですか?警視庁でも嫌っている人間がいるのは確実ですから。」
「まぁ、立ち話をするのも嫌だし、誰かに盗み聞きされるのも嫌だ。」
車に乗って走りだした。安定した場所になると語りだした。
「古木は、あいつは・・・制服警官でやめるつもりだったんだ。刑事なんてやるつもりはなかった。けど、あの事件が起きたときに俺はあいつの弁解をしないといけないと思った。遺族に全てを話したと告げたときは激怒だよね。邪魔をするなってさ。」
「・・・。」
「死ぬ覚悟ができてた時だったからかもしれない。光ちゃんとも会ってなかったから。腫物としか扱わなかったほかの捜査一課の連中は。俺は事情を知っているんだ。普通に態度を変えなかった。それが今につながる信頼になったんじゃないのか。小寺にしろ渡辺の扱いはそこから。」
当事者となって助けてくれた人がいたから今があると思っているのだろう。有象無象の噂に左右されていたら無駄な体力を奪われるのだろうと。市橋は納得してしまう。
「この事件が終わったらあいつはやめるな。」
「どうしてですか?本人にも聞いてないじゃないですか。」
「簡単だよ。親父の慕っている小説家の関係者を疑うんだ。嫌だと思うぜ。それも身内に近いんだ。・・・大丈夫、やめても協力してくれる。」
市橋が戸惑ってしまうほどのはっきりとした言葉の上に満面の笑みを返されたら対応に困るのだ。水沢はやって来たことを何とも思ってないのだろう。権力に誇りを勝手にもって保持のために嘘をつくのは嫌なのだ。報われるとかではなく、真実という武器に立ち向かう勇気がないのだ。
「あいつはな、中途半端な覚悟を持った奴は嫌いなんだよ。簡単に寝がえりを打つからな。無駄な正当化は言い訳だ。」
中途半端な権力・覚悟はないに等しい。頼るしかないものをなさないために嘘をぶっぱして・・・。ふがいない言葉を堂々と言うことは辱めだとは思わないのか。みじめな奴があふれている。