小説の手がかり
光から受け取った炎火と書かれた分厚いハードカバーを見つめた。道治はもっていかれるのが嫌なのだろうか水沢がもっている本をにらみつけている。
「道治さん、何処へももっていきませんよ。好きな作家が駄作だといって特別にくれたものだと重々承知してるし、もしよかったら出版社がわかればと思ったくらいで・・・。」
「恍惚社じゃないの。皆川さんの作品をたくさん出しているからね。それか時たま特集をしている景色館とかね。」
光が思い出しながら言っているが、そばにある本を見ればいいことを思い出しているのかを問いたかった。無論、そんな言葉を口が裂けても言ってはいけないと思っているのだ。
「恍惚社だ。ミステリーを好んで扱っているし、発掘をしたのは恍惚社だから少しばかり嫌がっていた時期もあったからね。恍惚社に行くのなら俺の名前を出せば理解してくれる。それか詩郎かどちらかな。」
「道治さんには申し訳ないからあいつの名前を借りるつもり。」
「そうか。俺の名前を使うのに申し訳ないも何もないんだよ。詩郎と仲よくしてくれているからね。」
恍惚社も景色館も大手の出版社で知らぬものはいないだろう。オールマイティーに扱っているために優遇をしてくれる。自主出版を行ってもいるのでわかっているのだろう。漫画、小説、ライトノベルと多数ある中に選ぶことができるから。市橋は唖然として聞くしかなかった。それはついていくのがやっとの会話を水沢は苦を感じることなく淡々と言っているのが驚きだった。3人に一礼をしてから店を出た。
「水沢さんって本のこと詳しいんですね。」
「それはな、古木から聞いたことを言っただけだ。買いかぶりをするつもりもないからさ。古木に聞けば大概のことはわかるさ。あいつも編集者になりたいだろうからな。作家になれるし・・・。」
水沢は寂しい笑みをこちらに向けた。市橋はその表情を見て入れられなくなって空を眺めた。雲の重さで沈んでいきそうな勢いだ。下がって襲うことはないだろうが、と思う。
「まぁ、そのためにも解決してやらないと。あいつは自分の身を挺してまで守りたかったんだから。あいつは感覚で動いているように見えて理由をもって動いているんだ。」
「わかってますよ。鑑識のようにはいずり回るように証拠を探していたんですから。」
初日に見た権力を嫌っているそのものの行動だと思った。常識という武器を手前勝手に振り回している政治家などとは大違いだった。無知のふりをしたものだ。