プレゼント
絵里から漏れた言葉は古木がいいそうな言葉だった。沈んだ心を変えるためとか思いながらも戸惑ったのだろう。数回しかあっていないのに・・・。
「そんなこと言ったんですか?」
「いうさ。あいつなら。存在自体に疑いをもっていた時期に会っていたことも関わるんだろうけどな。まぁ、今は自暴自棄になってないし班をもっていることで責任は感じているんだろう。ちょうどよかったんだ。」
相手を責める素材を探すことができないお人よしなのも困ったものではあるが、それは制服警官の時は力を発揮した。市橋は本の山をまじまじ見た。倒れないようにしてあるのだろうが、何時か倒れてくるのではとひやひやしている。
「水沢君、来てたのか。上がっていくか。面白い小説があるんだよ。」
「道治さんもいたんだ。絵里さんも言ってくれればいいのに・・・。」
「今日は特別だからね。無理言って出版社の人に頼み込んで休みにしてもらったのよ。詩郎のことが気がかりでね。」
ドタバタという音をたてながら光が来た。そろっているのに驚いた様子もない。何時もことと割り込んでいるのだ。
「これね。水沢さんには会ってほしかったけど。あの2人は詩郎さんのところで編集を見てるんじゃないかしら。新作を作るって意気込んでた一止と誠治を見ればね。」
「あのー新作って・・・。」
「市橋は知らないか。一止と誠治は小説を書いているんだよ。此処で育ったうえに古木の変わったところも映ったようなものだからな。デザインもやってるらしいぞ。あいつが気に入れば製本して渡してくれる上よく書いたという意味を込めて小遣いもくれるから奮起してるんだろうな。あいつには構わないな。」
3人は水沢が言うことにただ優しい笑みを浮かべてうなずいている。光も娘同然なのだろうから気を遣うことも少ないのかもしれない。
「誕生日って何を渡したかわかるか?」
「いくつなんですか?」
「あぁ、小学校1年と2年だよ。」
とりあえず付け加えておくという感じのけだるい声が届いた。
「ゲームですか。」
「普通はな、2人は辞書もらったんだ。広辞苑だ。共有することで目の付け所が違うこともわかるから1冊っていう理由付きだよね。」
「そう。小説を書くのが使命だと思っているのか、喜んでね。蛍光ペンやら赤ペンやらでへたくそながら使ってるわ。」
嬉しそうに報告する光は昨日のことなど忘れてしまっているのだろうか。いや、忘れたふりをして正常を装っているだけなのかは見分けはつかなかった。