戯言
市橋は見た目だけはすがすがしいくらいになったが空をふと見たら雲がかぶさっているようであったのだ。大家に再び挨拶をして去っていた。にこやかな表情はまるで全ての思いを隠したいのではないかと思うほどだった。警視庁に戻るとノイズにあふれた世界になっていた。渡辺と小寺は出て行っているのだろうかいないかった。コンビなのだ。守りたいのだと思った。水沢が隣の机で優雅に寝ていた。寝言を言っている。厄介な夢でも見ていると思いながらコーヒーを作って飲みだした。すると、コーヒーのにおいに水沢は起きた。大きな伸びとあくびを携えて。
「来てたのか。てっきり古木を見守っているのかと思ったぜ。」
「大丈夫だというのならそれまでです。水沢さんには聴きたいことが数多くあります。」
「なんだ。改まって・・・。俺は答えるぞ。嘘は言わない。事実を語って改めてわかることがあるって教えられたからな。」
コーヒーを作りながら言った。彼は作ったコーヒーを即座に飲み干し再び同じコーヒーを飲んだ。気が済んだのかゆったりと回転いすに座って1回転して市橋のほうに向いた。
「どうして班長と水沢さんは一緒にいたりするんですか?他の班の対応とは明らかに違っていて・・・。」
「それはな、俺も古木と同じ交番にいたんだ。同じときに制服警官になったこともあってな。仲が良かったんだよ。死んだ同期ともな。運命は残酷なもんだ。」
「班長の奥さんとも仲が良かったじゃないですか。班長から紹介を受けたんですか。」
投げる質問は何処か愚問で深く問う必要もないはずなのだが、水沢は何事もないように答えるのだ。
「光ちゃんのことか。それはあいつと付き合いたいといっている子がいるって古木の兄貴から相談を受けてな。あの事が起こった後だったから断るだろうから有無を言えない状態にしておくために会ったんだ。それからの仲。」
「班長と付き合いたいといったと本人は言ったんですか?お兄さんが勝手に言っただけかもしれないじゃないですか?」
水沢に向けられた冷たい視線を避けるために人工の明かりに頼った。求めても無理があるのだ。冷たい視線が終わった後に水沢のほうを見た。
「光ちゃんに確認したんだ。言わされただけじゃないのかって。だけどさ、きっぱり否定されたよ。死んでほしくないことも含んでいるけど優しい人だからってね。それで断然応援するわ。」
「それで今に至るなんてすごいですよ。過去を抱えながら生きているのを支えているんです。」
「当たり前だよ。過去を乗り越えて生きてくんだよ。変えられないものを変えようとするのは戯言だろ。」