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陽炎と泡沫  作者: 実嵐
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苦味を抱え

光と古木の過去のことを聞いた後に病院を後にした。酒に酔っていたことなど嘘のようだった。夜明けに向かっているのに市橋の心は晴れないだろう。アパートに帰ってもすることがない。着替えるくらいはと思って電車に乗った。空きだらけの電車はむなしさが響いた。外を見てもトンネルだ。もやもやを吐き出すために強引にため息をついた。よくため息で幸せが逃げるといわれているが思い込みなのだろうかと。電車に乗っても顔を上げている人間はいない。携帯に夢中になっていたり本を読んでいる。疲れているのか何を考えているのかもわからない。アパートに戻ると愛想のいい大家が掃除をしていた。

「また、遅い帰りですね。市橋さん。」

「大家さんこそこんな朝早くから掃除とは生が出ますね。」

市橋の言葉に大家は屈託のある笑みを見せていた。笑みを見せた後にうつむいたのだ。

「これはね、かかわりを断ちたがる人達に警告をしているんですよ。これでも世間に抗ってみているんです。今や自分の身の可愛さから反感を食らうことを選んでいる人達に初心とは何ぞやと教えてやりたいと思ってね。ダメだね。小さな力なんざいずれつぶされてしまうのだからね。」

他人にかかわらないことが多くなっているが、それはダメなのだ。大家の顔は真剣そのものだった。警察にいてもわからないことばかりを積みあがっている。

「改革が起こるのを願ってます。」

「市橋さんは挨拶してくれますし声をかけてくれる。うれしいですよ。なんで大家になったのか思い出させてくれました。人とかかわりたいと思ってしているのに・・・。」

つぶやき漏れていく言葉があった。絶望を重なっている。

「あぁ、ごめんなさい。仕事があるのに足を止め指してしまって・・・。」

「いいんですよ。また、話しましょう。時間があるときとしか言えないのが残念です。」

市橋の住んでいるアパートは2階なのだ。家賃もそこそこ安いところにしたのは何時帰れるか保証などない。事件にのめりこむのは知っていたのだ。ドアを開けるときれいだといえない部屋でシャワーを浴びた。そこかしこにあった菓子パンを食べた。空腹をしのげればという安易な食べ方ではあったが構わない。母親は警察に入った直後に死んだ。父親とは会ってはいない。警察に入ることを喜んでいたが、制服警官でいたいといったら怒ったのだ。そんなことをさせるために警察に入るのではない。出世が大事なのだと口うるさく言われていたのを思い出した。


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