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陽炎と泡沫  作者: 実嵐
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運の天気

市橋は隣の男性に促されるままに飲んでいたこともあってほろ酔いと呼べるくらいになってしまっていた。最初、来た時は騒音とも取れた会話も今や心地よいサウンドに移り変わってしまっている。なじむとはこういうことを言うのだと改めて知った。知らぬことはないが、多くは流してしまうのだから。回想じみたことを頭の中でしていると一緒に飲んでいた男性が肩をたたいた。

「電話、ずっとなっているぞ。出なくて構わないのか?」

彼は言われるがままにスーツのポケットから携帯を取り出した。確認してみると不在着信がかなりの件数だった。小寺、渡辺、水沢と交代でかけているのだ。律儀なうえに出ないからと時間を止めることはなかった。隣の男性は心配な顔をして見つめていた。

「出会えたのは何かの運かもしれない。だから俺がおごるよ。君はやるべきことをするほうがいい。」

「有難うございます。感謝します。」

深すぎる一礼に戸惑っていた男性も受け入れて伝票を渡して表へと出た。重い気持ちを張って電話をかけた。小寺に。

「もしもし、市橋です。」

「飲んでたろ。別にいいけどな。今から警察病院へと来い。班長が実家に行っていたらしくて強盗に遭ったのか何かでナイフで刺されたらしい。」

酔っていたところに水を頭から浴びたような気分だ。急いで答えるしか市橋には持ち得ていなかった。

「わかりました。今から行きます。」

「ほどほどのスピードでいい。事故でも起こされたら困るから。」

付け足すように言ったのは優しさである。うなずいてみたものの対面しているわけではないので、改めて言い直す手間は増えたがよかったと思った。大きな通りに出てタクシーを止めた。止まってくれたタクシーの運転手は異様な雰囲気にのまれたのか一言も話すことはなかった。それは市橋はありがたかった。下手な会話をもし続けたとして大した答えを返せないと思ってしかがなかったからだ。警察病院とついたら会計をそそくさと済ませて受付へといった。慌てた様子に困惑しているのは受付をしている女性だった。

「古木詩郎さんは何処ですか?」

「あぁ、それなら病棟にいますよ。伝えますね。」

対照的な答え方にやっと落ち着きを取り戻していったのだ。市橋は病棟と病室を知ってエレベーターに乗った。落ち着くことはない。目的の階につくと降りて行った。エレベーターの前にいたのは小寺だった。

「受付では教えてもらえるだろうけどな。症状を知ってから会うのが気がもむだろうからと思ってきたんだ。ナイフが刺さったのは腹だ。深傷じゃなかったし、すぐに呼び出せたこともあって大事には至ってない。」

「それを聞けて安心しました。」

「それで安心に値しないって言っているのが光ちゃんと水沢さんだ。班長に会った後に話を聞こう。」

しおれた顔をしてうなずくしかなかった。


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