データの存在
市橋は警視庁へと戻ってきていた。騒がしいほどのことなのだろうか。捜査一課に戻ると不思議そうな顔と対面した。
「お前、古木は?」
「班長は用事ができたといって別れました。唐突だったので、驚きました。」
「そんなもんさ。あの人はいつも急に決めてしまう。」
小寺のつぶやきを聞き入った。水沢には斎藤達郎のサインが入った本を渡した。紙のブックカバーがかかっているため、疑わしい顔を見せていたが中身を見ると納得しているようであった。自分の机に手帳を放り投げた。
「市橋、何処に行っていた。班長と一緒だったら普通いけないようなところまで行くからな。」
「斎藤達郎の自宅に行ってました。孫の話を聞いてきたんですよ。」
市橋は斎藤で聞いたことを全て手帳を見ながら答えた。相槌を適度に打つ小寺に対して怪訝そうな表情の渡辺の対立を見ているようだった。
「班長の目線は上に伝えないときもあるからな。水沢さん、どう思います?」
隣の席にコーヒーを飲んでいる水沢に渡辺は問うた。その言葉を聞いて少し困惑気味であるが答えを見出そうとしている姿はあるのであろう。
「黙っておけばいいだろう。だから市橋を帰らせたのかもな。口走るとも思えなかったのだろうから。」
「そうですよね。下手なことをしては困るからですね。」
理解した市橋はパソコンを開いた。斎藤達郎はペンネームを使っている。作家としては普通の行為も何処かわけありという感じがにじみ出ていた。
「そういえば東西大学に行ってきたんですよね。」
「江藤望はいる。だが、バイトは別の仕事をしているらしい。サークルに所属しているから利用されるとしたらそこしかないといっていたよ。」
小寺の丁寧な言い方にほっとするのだ。見栄えない感じを好んでしまうのだ。
「そのサークルって他の大学の人も来るんですか?」
「来るってさ。データをもっているのは東西大学だから来ることになればどうにでもなるし、交流をしているからある程度の個人情報をもっている。」
安易に扱ってはならないのが個人情報なのだが、何処からかえた情報をまき散らすのだろう。それに今は自分から発信しているのだ。突き止められる可能性が高くなるばかりだ。腕をもっていればなおさらのことだ。自己防衛能力をろくにもっていないことを知らされているのと変わらないのだ。
「まぁ、市橋も普段行かないところに行って疲れたろ?」
「疲れましたよ。慣れている班長が不思議なくらいですよ。慣れろとは最初に言われましたけど・・・。」
「無理か?」
「慣れたいですよ。全てに驚いていたら疲れますから。」