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陽炎と泡沫  作者: 実嵐
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きらびやかな工程

ドアが開いた。相手の顔を確認をすると中年の男性のずんぐりむっくりした体を揺らしていた。

「詩郎君、入ってくれ。」

「実継さんこそ新作があって忙しいときなのに押し入ってもいいのか?」

「構わないよ。昔からの仲だし、君のお父さんには恩義もある。文雄君は古書店を継ぐために来たけど熱心すぎるほどの本好きがあるんだろう。」

促されるままに入ってみると書斎の広さに驚いた。市橋の反応を楽しんでいる古木を男性は見ていた。入口近くでテーブルを置いているのだ。落ち着くための場所なのだろうとしか思えなかった。

「茶でも飲むか?あの人は本を読まないから困るんだ。つらさを嘆いても届かないからね。」

「安西さんも長いな。俺が何度か通っていったときからだから4~5年というところか。飽きないのかね。」

ぼやきにみられる古木の言葉を市橋は驚いていた。市橋が目で問うているのを気づかないのだろう。落ち着いているどころか我が家のように土足で入り込めることにどう評価をしていいのかわからない。安西と呼ばれた彼女はきっとお手伝いさんなのだろう。かなり長いときを此処で過ごしているのだろうから。

「それよりアポなしでこなきゃいけない理由とはなんだ。詩郎君の仕事は道治君から聞いているから隠しても無駄だよ。」

斎藤は不敵な笑みを浮かべた。それに構うことのない古木の態度は威圧的に感じた。著しく気分を害しているわけでもないだろう。

「孫の話を聞きたいと思ってね。ある事件のことを調べていて気になったんだ。貴方の駄作が元になっているから。作家になりたがっている彼ならあり得るかなって。再現ってね。」

「卓のことか。俺が駄作と評価した代物が利用されたのなら落ち度があるな。書くだけしか能がない人間をしたってくれるのはありたいけどあいつも深追いする傾向があるのは事実だ。あいつの両親に会うのをよしたのは当事者にすぎると感情が入って厄介だってことを知っている。俺は当事者のような第三者みたいな人間だってわかっていたんだろ。作家にもなる腕ももっていながら編集者になれる腕をもっていながらやめない人よ。」

口早にしゃべるのは癖なのか聞かれた内容が嫌だったとしか思えない。市橋は置いてけぼりにされている。そしらぬ顔で淡々と進めている姿は回数をこなしているのだろう。古木は寂しい笑顔を見せているのだ。

「俺が考えるのはある仮定を示しているだけであってな。深く考えるのはよしてくれ。ある程度の内容がわかり次第伝えに来るよ。」

そっと伝えて古木はドアを出た。きらびやかな世界ではないのだから。浮き沈みがある。


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