豪邸のドア
古木の運転する車は郊外と称されるようなところについた。建物を見ると想像以上だった。億とかかかっているのだろうかと思うのだ。和モダンである。
「市橋、こういうところにも慣れておかないと後々困るぞ。政治家とか社長とか会わないとならない仕事だからな。いちいち驚いていると疲れてしまうから。」
「はい、わかりました。」
誠実さが目にわかるほどの返事とはこのことなのだろう。市橋は古木とちら見した。目の前の門をどうするのだろう。アポを取っていないのだ。開けてはくれないだろう。彼は重むろに車から降りてインターホンのところに行った。彼の行いは淡々としている。何時ものこととしか思ってないのだろう。彼は車に戻ると仰々しい音をたてながら門が開いた。迎え入れたということになっている。車は日本庭園を通り抜けた。庭師のなせる業を近くで見ている。豪邸を目の前にすると足がすくむばかり。
「市橋、重要参考人を探す作業をしているんだ。位も権力も関係なんざない。」
玄関のドアがゆっくりとあいた。迎え入れたのはぽっちゃりという言葉が合うような女性だった。
「あら、古木さんの息子さんの・・・、確か・・・」
「詩郎です。達郎さんはいますか?」
「えぇ、いるわよ。新しい小説を書かなきゃならないからこもっているわ。部屋に行けば開けてくれるわ。しーちゃんだからね。ふみ君は古書を継ぐことになっているし、時々あっているからうれしそうじゃないけどね。」
親父の連れとして毎回入っているし隣で付きっ切りくらいにそばにいるのだ。気が散るのだろう。古書を継ぐってことになってもずっと関係があったのだろう。
「早く入って。達郎さんが待ちくたびれちゃうから。」
「そうですね。おじゃまします。」
古木がそそくさと入って行った。追いかけるように市橋もついていった。廊下は永遠のようにあるように思えた。神々しい。それに尽きる。
「班長。」
「初めて呼んでくれたね。うれしいよ。」
「そんなことじゃなくて本をもっているじゃないですか。聞き込みにもっていくなんておかしいですよ。」
「だって水沢に頼まれたんだ。あいつには恩があるからな。返していかないと。」
ぼんやりとつぶやく古木の横顔は霧のように見えた。つかみたいのにつかめない何があった。人を遮るような力なのだ。古木は木の扉をたたいた。力をあまり出すことになく軽く叩いている。扉がゆっくりとあいた。躊躇しているようにしているのだ。誰かわかっていないのか。




