価値観に対して
詩郎にいってやれる最大限の言葉など存在しなかった。下手な慰めをしたところで何を伝えることができるのだろうか。エゴとの葛藤していても自問自答を繰り返すだけで意味を成してくるとは考えていない。光の声にこたえてくれる。ただそのことだけでかまわなかった。
「事件はどう?解決しそう?」
「しなくちゃね。世間では悪くてもしなくちゃいけないから。」
「本を読んでいたからそれに関係することよね。駄作がまさかここで役に立つとはね。」
駄作というのは斉藤の個人の意見なのだ。それに対して攻撃をする人もいるだろう。他人の価値観に入り込んでしまわないといけないという人が・・・。道治はその駄作が面白かったこともあって名を変えて少し変化をつけて売るように志願していた。その本は何万部というほどに売れたのだ。ただでさえ売れないといわれている時代に売ったのだ。光はそれを近くで見ていることもあって多くはいえない。
「仕事は順調かい。エッセイの仕事をよくもらえたな。親父も。」
「一応簡単なのを書いて見せてみたら面白いっていってもらえてそれからエッセイの仕事が何本かあるの。少しの安定はあるでしょ。」
エッセイの仕事がもらえるように道治に教えてもらったのだ。ど素人にかける範囲なんて決まってきてしまう。それを避けたがっていた。道治は型破りというタイプではない。かといってはまりぱなしというわけでもない。作家に合わせた対応するので作家には安心をもたらすタイプであるのは間違いなのだ。
「こっちのことは安心してくれればいいから。集中しないといけないことが積み重なって壊れたらいやなんだからね。」
「兄貴からか。」
「違うわよ。妻としての言葉よ。文雄さんも貴方も優しすぎるの。わかってないだけで・・・。」
嘯いた態度をとってもかまわなかったができなかった。父親であることも自覚しているだろう。前を向いて歩き出しているときに障害物に出会うととまってしまう可能性を詩郎はもっている。立ち止まることはいいことだが、とまりすぎて判断ミスを犯す可能性もついている。付きまとっているのだ。
「たまにはこういう日もできたらいいのにな。忙しいってことはいいことだけどそれだけ何かを割いているんだからな。」
「気にしないの。こうなるのはわかっていた話でしょ。制服警官から刑事に上がれたのは実力があったの。そう思っていたほうが楽でしょ。外で靴を削っているのも性に合わないって言うのならやめたら事件が終わったらっていう条件つきでね。中途半端は許さないわよ。」
手厳しい言葉ではない。暖かい言葉をあふれている。それにあの日まで気づくことができなかったのは不覚の事態であったのだ。それを堂々と教えてくれる人がそばにいるのだ。