過去の償い
「どうかしたのか。思い出していたのか。詩郎と会った時のこと?」
文雄の言葉に現実に引き戻された感じがした。光は少しばかりの苦笑いを浮かべた。
「まぁそんなところ。あの人と最初に会った時驚いた。忘れらなかったのよ。抱え込んでいるようにふさぎ込んでいるようにしか思えなくて。」
「当然だよ。あいつ、だってな。その同期の遺族からあいつが死ねばよかったみたいこと言ったらしいからな。相談相手なんているはずないよ。たまたま応援として行った奴に罪があるのかよ。ただ助けに行ってタイミングが悪くて刺されるところを見てしまっただけなのに・・・。」
「だからあんなこと言ったんだ。」
光がぼやけたような声で言った。その言葉を聞いて文雄は苦笑しているようだった。また愚痴でも吐いたのだろうと。
「言葉は単純でシンプルな分、残酷なんだって。そうよね。彼も本が好きだから救われたりしているのに、何を感じず言った言葉のほうがむごいものね。」
「そうだ。失言する政治家の奴みたいな他人事だと思って言っているのでは言う言葉がまるきり違うのだ。」
文雄も詩郎の苦悩を知っているから言えるのだろう。同じように十字架を背負うのだ。おろそうとしないのを知っている。
「加害者でもないのに責任転嫁をして人傷つけて死んだら責任とれるのかよ。無責任にしているんだ。部外者じゃなかったとして聞いてやるのが筋だろ。あいつの言い分なんて嘘だって決めつけて聞くなんて行動をしなかった。」
「むなしいなぁ。他人が信じられない世の中にしてしまった罪を感じるね。」
世の中の所為にするのはよくないが文雄の言い分もわかっているために場を収めるために言ったものだった。詩郎はいまだに命日になると墓に行くのだ。いくら忙しくてもだ。最近になって申し訳なかったといわれているのだ。文雄は言うだけ言えてすっきりしたのか通り過ぎていく風が涼しかった。その数分後だった。同じようなノックだった。声をかけるとドアが戸惑いがちにあいた。詩郎だった。
「ごめん。こんな時間に。」
「いいのよ。詩郎さんだって事件で忙しいのにいいの。こんなことをして。」
「俺は家庭を顧みない勝手な奴なんだ。こんなことをしてもばちは当たらないものさ。」
詩郎の核心を持ったような笑みに光はほっとした。あの頃と違って覇気があるのだ。みな、安心した顔をしていた。光のそばによって小さな肩を抱いた。
「不安にさせてごめんな。」
「いいのよ。頑張って解決して。」