出会いと一抹の不安
光と詩郎が出会った場所はごくありふれたところだった。ショッピングモールとかにある書店だ。少し話題に上がる前の本を探すのには苦労するのだ。何処も変わらない棚を眺めても景色は変わらない。従業員が少ないのかあわただしくせかされるようにしている。声をかける隙間もない。検索機があるところもあるがそこにはなかった。出版社に分かれているので1つ1つ探すには手間がかかるのだ。時間がなかった。
「あのー、探している本があるんですけど。」
書店員と話して帰ろうとしていた好青年でありながら何処かで寂しさを隠しているようでもあった。忙しいのなら断ってもいいのに笑顔を見せた。
「構いません。探しましょうか。ある程度は情報は入ってますからね。」
普通ならわかるといってもある程度のところであろうが特定した棚を見た。時間のかかる仕事ではないのだ。あいうえお順に並べているのだろうから。淡々と探しているのだ。うなるような姿はない。当たり前なのだろう。
「ありましたよ。これですよね。かなりマイナーな作家ですね。」
「これ、ドラマ化をするっていう話が上がっているので読んでみようと思ってみただけです。」
「それならこれも追加で読んだほうがいいです。特徴があらわになっているのはこっちなので。それを知ってからのほうが読みやすいです。」
文庫の2冊の本を手渡すことはなく、彼の手の中で包み込まれている。よほどの本が好きなのだろう。それを仕事をするのはいいことだと心底思った。
「俺が買いますよ。次いでに買いたい本がもともとあったので。」
「いいですよ。」
「そうですね。初対面で言われたら困りますよね。じゃあ・・・。」
2冊の本を出した。束を丁寧に渡した。彼の瞳は暗く輝いているとは思えなかった。苦しんでいる。そう思ってしまった。彼の背中は重い十字架が見えた。すれ違う人に頭を下げて現実から追われることを拒んでいるようでもあった。去って行った彼を追うことはならないと思って会計を済まさずに立ち読みをした。わざと会うなんて器用な行動はできないので雑誌を読んでいた。はやりの服を見ていても内容が入らない。その時点で恋に落ちていたのではなく、気になっていた。そんな単純な話ではない。寂しそうな目を簡単に忘れることができなかった。そこには自己嫌悪を含んでいたのだ。
「また会えたら・・・。坑口を使って話が聞きたい。」
小さな独り言を言った。報われない言葉に誰も構ってくれないのは知っていた。