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陽炎と泡沫  作者: 実嵐
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独りよがりの嫌気

光は自分の部屋にいた。詩郎の実家なのだが、彼はマンションに必ずかえって来るとかいう概念がないのか子供の顔を見てすぐに警視庁に戻ってしまったりするために同情を含めて部屋があるのだ。もちろん、仕事の都合上とかもある。エッセイをパソコンで書いているときにノックの音が鳴った。答えるとドアがゆっくりとあいた。顔を見ると詩郎の兄、文雄だった。

「ちょっと、いいかな?」

「別に構わないわよ。仕事に期限のある奴を今やっているわけじゃないから。」

光が穏やかな声で言うと満面の笑みを文雄は見せた。それはまだ幼さも残っているのではといつも思ってしまう。目立つ行為を嫌う2人を見ていると父親である道治に近しい部分が見え隠れするのだ。机を使っていたので回転いすは使ってしまっている。隣にある小さなソファに文雄は座った。

「詩郎の奴、久しぶりにかえって来たと思ったら仕事のためなんだからな。困った奴だな。」

「まぁ、仕事柄しょうがないと割り切らないとダメな部分が何処かであるじゃない。それと思えばいいの。私はそこまで気にしていないのに気にしているのはあの人のほう。」

「あいつには二者択一の正しい判断がないんだろうな。一止と誠治と遊んだ後、光ちゃんに何も言うことなく本を読んでやがる。全く独りよがりもほどほどにしてもらわないとな。」

文雄の言葉もわかるが光も何処かで言うことなく飲み込んでいるところがある。甘えがあるのだろう。言わなくてもわかるという無謀すぎる幻想に頼っている。それを知るほどに彼女は自己嫌悪に陥る。頭の片隅には出会ったころの詩郎の目を思い出す。暗く何処か消えてしまいそうなほど儚かった。

「文雄さんが私を思ってくれるのはありがたいの。だけどね、詩郎さんにも考えがあるのだからいいの。事件のことになると顧みないときもあるのもわかっているのに攻めるのは可笑しいでしょ。」

「だけど・・・。」

「あの人の出会ったときの目を思い出すたびにぞっとするの。書店員に間違えてしまったのは運命だったのよ。心の中で叫んでたのを私が気づいた。」

思い出しているときの彼女は安堵というものを感じられない。心配をしているのがまじまじとわかってしまうのだ。文雄はそれを心配しているのだが伝わっているのだろうかと謎に思ってしまう。彼女の言葉に使われた運命という言葉をある種定めを含んでしまっているのだ。詩郎は1人で抱え込むことが多いが光も近しいところをもっているのだ。似たもの同士の夫婦なのだと。


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