本のタイトル
斎藤達郎は数々の作品を世に出しているが炎火というやつだけは気に入らなかったらしく駄作だからといって道治に渡したのだ。とことん追求して作品を作り出す分、時間の無駄になったのかと思ったが、道治が読んで面白かったために少しの修正を求めて名を変えて発売することになったものだった。それが2冊なのだ。売り物ではなかったが売ってしまったほうがいいだろうといったものなのだ。言わずと知れた作品ではない。詩郎は夕飯が終わった後風呂に入り一止と誠治と疲れるまで遊びつくした時に読み始めた。何時読んでも作品はすたれることはないのだ。リビングでソファにけだるい感じで座っていると絵里がコーヒーをもってテーブルに置いた。
「さっきはごめんね。言い過ぎたよね。」
「構わないよ。おふくろだって心配してくれてたんだろう。謝る必要のないときに謝っていたらきりないよ。」
詩郎は少し目線を下げたまま言った。すまなそうな顔をしている絵里を見ていられないのだ。変人といわれている人物の多さに苦労してきたはずだ。テーブルに置かれたコーヒーを飲んだ。
「うまいね。腕上げた?」
「回数重ねれば上げるわよ。それより光ちゃんと話さなくていいの。言葉を言わなくても通じるなんて甘えた考えを教えたつもりはないわ。」
「わかったよ。何処かで時間をとるよ。光も結構言わないことが多いからと思ってしまうときがあるけど。」
絵里の澄んだ瞳を見ながら言った。答えが妥当かは別として笑顔を見せていた。そんな会話が済んだ後に本に目を落とす。ブックカバーをかけることを惜しまない道治の管理によってきれいな姿を保ったままなのだ。
内容は面白いだなんて言う言葉じゃすまないのだ。有名な家族の豪邸が火災に遭った。表裏のある姿のためにあまりいいと思われるどころか印象は最悪なものだった。権力でものを言わせてうぬぼれてしまっている。そして何もしないということでもあった。目立ちがりの癖に人を率いるつもりでいるのが心地よかったのか次々と受け入れていた。対応できるかではなかったのだ。隣人から嫌われていてその上会社の中でも浮いた存在であったのだ。それに鈍感であったのか世の中が少しも見せていないのか人を怒らすような失言を繰り返し言って平謝りをするという人物であった。
「近いのかな。遠いのかな。」
「似てるでいいじゃないか。深く読み込むと見えなくなるぞ。」
「そうだな。親父。」
編集者としては深く読み込むことは大切だが、今は別の話だ。