模倣
古木は市橋と現場を見た後、市橋はまだ警視庁に残って調べたいといったので警視庁に残して徒歩で帰った。細い路地を通るのであまりはやるとか思わずに店を始めた道治の驚いている。セールと書かれた手書きの紙が飾ってあった。古民家を買って店舗兼自宅にしたのだ。わざと古びた字にしているのが味があると思える。そんなことを思いながら敷居をまたぐと黄色い声が響いてきた。それもドタバタという足音もついている。そう思っているうちに足をつかまれて動けなくなった。
「やっぱろ詩郎がいいってさ。小説の話が上がってたからかえって来るよって伝えるとすぐに来たぞ。事件に打ち込むのもいいけど、顧みてやれよ。」
一止と誠治は離す気はないので詩郎は2人の髪をなでた。うれしそうな照れ臭そうな笑顔を見せている。文雄はまだ跡継ぎとしては修行の身であるが道治からある程度のことはわかってきているのだろう。以前よりはゆとりを感じる。
「文雄さん、いいの。事件でのことで後悔してはいけないからね。とことんやってもらわないとこっちだって実が持たないから。」
「久しぶりじゃないか。詩郎。どうせ事件だと聞かされたけど休まないといずれ壊すかもしれないぞ。」
2人を足から離して道治のほうへと向かった。本に囲まれた世界のようになっていて落ち着くのだ。子供の時からほとんど同じ状況であったことも関係あるのだろう。
「ただいま。親父、兄貴、光、一止、誠治。」
立て続けに言葉が続いたので言えなかった言葉を言った。みな、一応に笑顔で答えてくれた。リビングに行くと普通の家庭料理が並んでいた。母親の絵里はかえって来ると知って大急ぎで作ったのだろう。
「何時も急で困るのよ。文雄から連絡があったからよかったものの・・・。本当、のめりこむのもいい加減にしてよ。」
「そうだな、ごめん。」
「謝らなくていいのよ。仕事なんだから。それを怒られたら困るじゃないね。」
光はかばうような言い方をした。詩郎にはうれしかった。認めてもらっているのだ。絵里は心配なだけであるのも知っているし、抵抗する気力を残っていなかっただけなのだ。笑顔があふれていることだけでいいのだ。箸でつつきながら話していた。
「斎藤達郎の炎火だなんて本人が駄作だって言っていたしなを見せろだなんて珍しいな。」
「売り物にしていたほうは確認してくれたか?」
「したよ。なかった。売れたんだ。2冊しかないんだから。」
「ある意味模倣だなってな。」