反乱の意義
光と別れた古木の顔は見たことがなかったほどすがすがしく晴れやかだった。
「現場に行くぞ。」
「その荷物はどうするんですか?」
「そろそろあいつが戻ってくる時間だ。・・・あっ来た来た。」
水沢がかえって来る時間帯を知っているのだ。息抜きを好まない人もいるらしいが張り詰めたものを抱えていても困るだけなのだ。エゴに染まってしまうことはいつでもあり得る話なのだ。水沢は古木が立っているのに気づいて駆け寄ってきた。
「光さんが来たのか。それもこれか現場とは・・・。」
「いいさ。これ、俺のデスクにでも置いてくれる?」
「わかってる。やっぱり、被害者のいい話を聞こうとするのがバカだと思う位だよ。情けないよな。権力を振りかざしても実力と合わないと困るものだ。」
彼の独り言じみた言葉を古木は聞き逃すことはないだろう。対面の大切さをもっている。水沢に毛が寝なくやっているのだ。受け取っていた水沢は満面の笑みを浮かべている。
「お前のところの子供はいくつだっけ?」
「小学校の1年と2年だよ。俺に似てきたから少し警戒し始めたかな。けど、それもいいと思っているらしいよ。」
「光さんはすごいよな。変人扱いされてる古木と結婚したんだ。それに家庭自体が不思議だな。」
話題を変えているのだ。狙いがわからないと思うことがあるのだ。
「新入りを連れて現場を行くんだものな。お前が教えると小寺と渡辺がえらく腕を上げているんだ。しっかり教えてもらえよ。」
新入りの肩を水沢をたたいた。強く叩いていったのか市橋を痛そうにしていた。受け取った紙袋を見せびらかすようにして去っていた。
「全く、水沢は。・・・愚痴を言っているのはいけないな。行くぞ。」
「はい。」
多くを問うのはいけないように思った。近寄らないと見えない世界があるがそこにはびこる違う哲学を眺めるのは嫌なのだ。市橋の思いというはぐるぐると混乱へと導く。覆面パトカーに乗り込み音楽を小さくかき鳴らしている。
「それって奥さんの影響だと聞きました。小寺さんから。」
「あいつは固く見えて緩いから困るけど。まぁ、普通なら邪魔になるよな。」
車を走り出してるのに陽気に音楽に乗っている古木は嫌なことを思い出すのを避けているようにしか思えているのだ。ノイズに抵抗するだけでいいのだろうか。
「けど、此処の班ってアットホームですよね。創造していたのとまったく違って驚きました。」
「そうだろう。上下関係というのは必要だけど、固くしては反乱も起こらないよ。必要な反乱もあるから。」